「“言語化”疲れで、“言語化”という言葉にモヤモヤする」
「即答するよりじっくり考えるほうが大事なのでは?」
「別に“口下手”のままでもいいじゃないか!」…
など、まったく新しいコミュ力を説いた書籍『言語化だけじゃ伝わんない –––– 絵を描くように「考える・伝える」技術』が発売された。著者でイラストレーターのヤギワタル氏は、これまで200冊以上の書籍でイラストや装画を担当してきて、今回が初の単著となる。本書では、昨今の「言語化ブーム」に対して警鐘を鳴らし、「言語化“以外”に目を向けること」をイラストレーターならではの視点で面白く解説している。本記事では、その中からビジネスパーソンにも役立つノウハウとして紹介する。(構成/ダイヤモンド社・種岡 健)

「たった一言」の丸投げが人を殺す
「ちゃんと準備しておけ」
「いい感じで進めて」
「慎重に頼む」
仕事では、こういう指示がよく飛び交います。
一見すると、もっともらしい言葉です。
ですが、『言語化だけじゃ伝わんない』という本では、「曖昧な言葉による丸投げ」が、ときに悲惨な結果を生むことがあると語られています。
その象徴として紹介されるのが、「八甲田山遭難事件」です。
「準備が大事だ」が、一番危ない
本書では、まずこんな話が紹介されています。
日露戦争が起きる2年前、日本軍は物流ルートを模索する準備を行なっていました。
それが、青森県にある八甲田山の山越えを真冬に行なう、という演習につながります。
ところがその演習が、「199人が死亡する」という悲惨な遭難事故を招いてしまうのです。
この史実をもとに書かれた『八甲田山 死の彷徨』という小説があります。
実は、冬の八甲田山の山越えを試みた部隊は2つありました。
2つの部隊が、それぞれ異なるルートで山越えをしたのです。
史実では、2つの部隊はたまたま同じ時期に演習を行なっているだけです。
作家の新田次郎が脚色した記述では、2つの部隊の部隊長たちは、参謀長から次のような言葉をかけられます。
「準備が大事だぞ。ありとあらゆる方法を慎重に考えた上でその行軍を成功させることだ」
――『八甲田山 死の彷徨』より
こんなことを言った本人も、そもそも冬の八甲田山を越えたことはありません。
地元の農民ですら、冬は遭難の危険があるので登ることのない山です。
この演習の話を聞いた地元農民がみな「やめたほうがいい」と言うレベルです。
だから参謀長は具体的な指示が出せず、部下に準備のイメージを丸投げします。
――『言語化だけじゃ伝わんない』より
これは、現代の仕事にもそのまま当てはまります。
「ちゃんとやっておいて」
「しっかり準備して」
こういう言葉は、一見すると指示に見える。
ですが実際には、「具体的なイメージ」が完全に抜け落ちているのです。
同じ「準備」でも、頭の中のイメージは違う
本書では、さらにこう続きます。
部隊Aは、1年前に別の雪山に登った経験をもとに準備を進める。
もうひとつの部隊Bは、決行日の5日前に、八甲田山の途中まで予行演習を実施。
その経験をもとに準備内容を決めていきました。
結果、部隊Aは極度に疲弊しつつも、全員生還。
部隊Bはほぼ全滅してしまいます。
でも、部隊Bの「5日前に予行演習」なんて、とてもいい準備だと思いませんか。
しかし、予行演習の日は快晴で、実際の行軍の日は吹雪でした。
遭難の最大の要因は、決行の日が吹雪だったせいでしょう。
ただ、その吹雪に対する準備の差が被害の差につながったのです。
部隊Aは1年前に、別の雪山で実施した訓練の経験がありました。
部隊Bは5日前に行った快晴の日の予行演習の経験です。
振り返ってみると、やるべき準備は「吹雪が来ても耐えられるような準備」でした。
でも、部隊Bは快晴の日の経験が強く残ったせいか、「吹雪の冬山を越える準備」ができていませんでした。
――『言語化だけじゃ伝わんない』より
どちらの部隊も、「準備したつもり」だった。
ですが、頭の中にあった風景が違った。
つまり、「準備」という同じ言葉を使っていても、想像している現実が違っていたのです。
これは仕事でもよくあります。
「想定しておいて」
「リスク管理して」
「慎重に進めて」
そう言われても、人によって想定する範囲が違う。
だから事故が起きる。
「経験」がないと、人は想像できない
本書では、最後にこう語られています。
吹雪の雪山登山の経験がない人は、何を着ていくかも曖昧になります。
経験がないことに備えるのはとても難しいのです。
言葉というものは『似たようなものをぐるっと囲んでラベルを貼ったもの』です。
八甲田山の事例でわかることは、ぐるっと囲んだ中に「何を見つけられるか」は、経験によって変わる、ということです。
言葉の理解の度合いは、『経験』が決めるのです。
――『言語化だけじゃ伝わんない』より
人は、「準備」という言葉を知っている。
でも、何を準備すべきかは、経験がないと見えない。
つまり、経験がない人に対して、「ちゃんと準備しておいて」とだけ言うのは、かなり危険なのです。
「丸投げ」は、想像力の放棄である
『言語化だけじゃ伝わんない』は、「指示」の怖さを教えてくれます。
本当に危険なのは、「悪意」ではありません。
「曖昧な言葉を、そのまま投げること」です。
なぜなら、人はそれぞれ違う景色を見ているから。
だから、仕事ができる人ほど、具体例を出す。最悪のケースを共有する。場面を想像させる。実物を見せる。
つまり、「相手の頭の中に同じイメージをつくろう」とするのです。
たった一言の丸投げ。
それは、「あとはそっちで想像してね」という責任放棄でもあります。
そして、人は想像できなかった現実によって、簡単に壊れてしまうのです。
1981年静岡県生まれ。制作会社にて、雑誌タイアップ広告の制作進行を務めたのち、フリーランスのライターを経験。国際情勢関連の英日翻訳をやりながら、2011年からイラストレーターの活動をスタート。現在は書籍・雑誌・広告など幅広く活動中。特に、ビジネス書や新書での挿絵や図解を担当することが多く、10年以上、活躍している。
これまで、装画・イラストを担当した書籍は200冊以上。『言語化だけじゃ伝わんない –––– 絵を描くように「考える・伝える」技術』(ダイヤモンド社)が初の単著となる。








