AI時代、「手間」が新しい価値になる
――手間がかかっているってことが価値になる社会はありそうですよね。最近はビジネス書でも、「著者が自分で書いた」ということをアピールする本が出ていたりします。
加藤 なるほど、自分で書いたが価値ですね。料理も近いところがあるかも。
レシピ通りに作ると、当日の天気や湿度に関係なく同じ分量になってしまうわけですが、ちゃんと美味しい。一定の幅の中に収まっていて美味しい、というか。
とはいえプロにはかなわない。プロの料理人にとって、「美味しいの幅」はもっと狭いでしょうし、狭い幅の中に着地できる。「今日は湿度が高いからちょっと塩を減らそう」みたいな調整、手間をかけることができる。
だから素人がレシピに従って作るより美味しいし、当然ながら価格も高くてよいわけです。
AI時代に価値を生むのは「モノ」ではなく「コト」
石井 本当にいいものを作ろうと思ったら、AIを使わない「Off-AI」、つまり人力でやった方がいいわけですよね。
加藤 うーん、「Off」が必須とまでは言えないのでは。「With」もあるでしょう。
ただAIへの依存度が低くなるんじゃないですかね。人間度が増すというか。
石井 人間が、感能や感性を全力で使ったような「With-AI」の仕方にならなければってことですね。
加藤 まさに石井さんの言う「人機共想」ですよね。
ただ人の配分が多くなれれば単価が高くなる傾向でしょうから、それだけあればOKということでもなく。マスプロダクト、マスサービスも依然有効です。両方あって、選択肢が豊かな社会が好きですけどね、個人的には。
石井 なるほど。ビジネスやプロダクトの先には、好き嫌いが作用する領域が広がっていて、そこで人間が全能力を発揮するというのが大事なんですかね。
加藤 そう。で、それはもうすでに起こっているんですよね。価格が高くても、顧客が絶対に離れないビジネスってあります。
たとえば、ある酒屋さんがあって。道を挟んだ向かい側に大きなディスカウントストアができたそうなんです。当然そちらの方が安いし、お客さまもたくさんいらっしゃる。
その一方で、その酒屋さんの顧客が離れたか、といったらそうじゃないケースがある。
酒屋さんとディスカウントストア、同じ工場で作った商品をそれぞれ売っているんだけど、酒屋のお客さま曰く、「やっぱりこっちのお酒は美味いよね!」っておっしゃるんですって。
商品としてのクオリティはある上で、「あなたから買ったから、美味しい」と。モノを買っているけど、結局はコトを買っているみたいなことはもうある。この傾向はAIがあろうがなかろうが変わらないでしょう。
もちろんAIはどんなビジネスにも導入されていく流れは否定することなく、人間の知恵や工夫をどう乗っけていくか。
モノをコト化して、価値にできる人。
AI時代には、この価値がますます重要になっていく気がしますね。
(本稿は、書籍『AIを使って考えるための全技術』著者の石井力重さんと、監修者の加藤昌治さんによる対談をもとに作成したオリジナル記事です。)
アイデアプラント代表。早稲田大学 非常勤講師(デザイン論)。日本創造学会 元理事およびデジタル推進委員会 委員長。東北大学大学院修了後(理学修士)、ハイテク専門商社に5年勤務。同大2つの大学院(工学、経済学)博士後期課程にて創造工学を研究後に退学。新エネルギー・産業技術総合開発機構のNEDOフェローとして大学発ベンチャーに3年駐在。2009年にアイデアプラント設立。創造工学の研究、ブレインストーミング・ツールの開発、アイデアソンのデザインとファシリテーション、創造研修などをしている。研修を実施した企業、教育機関はこれまでに600以上で、のべ2万人以上が参加。実施企業は、グーグル、マイクロソフト、NTTドコモ、富士通、KDDIなど。
1994年広告会社入社。情報環境の改善を通じてクライアントのブランド価値を高めることをミッションとし、マーケティングとマネジメントの両面から課題解決を実現する情報戦略・企画の立案、実施を担当。著書に『考具』『チームで考える「アイデア会議」 考具 応用編』『アイデアはどこからやってくるのか 考具 基礎編』(すべてCEメディアハウス)、『仕事人生あんちょこ辞典』(角田陽一郎氏との共著、KKベストセラーズ)など、ナビゲーターを務めた書籍に『アイデア・バイブル』(ダイヤモンド社)がある。









