仕事でAIを使うことが当たり前になった今、AIによる自動化が進めば進むほど、「人間がやる意味はどこにあるのか」「すべてをAIに任せるべきなのか?」という新たな問いが生まれています。人間よりも優れた、AIが作った文章、AIが考えた企画、AIが設計した商品。効率は上がる一方で、「人間にしか創れない価値」はあるのでしょうか。
そこで、AIを使った思考術をまとめ、全680ページ、2700円のいわゆる“鈍器本”ながら話題となっている書籍『AIを使って考えるための全技術』著者の石井力重さんと、監修者の加藤昌治さんに、「AI時代における価値」についてお聞きしました。(構成/ダイヤモンド社・石井一穂)
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AIで完全自動化したのに「パンがまずくなった」理由
石井力重(以下、石井) 加藤さんに意見をお伺いしたいことがあります。
僕は、いずれAIで何でもやるようになった先に、100%AIでできるんだけど、あえてちょっと人力に戻す領域が生まれるだろうと思っています。
なぜかというと、大分昔の話ですが以前、あるパンメーカーを訪問したことがありました。そのメーカーはラインを全部コンピューター制御に替えていたので、もう人間が介入する必要がなくなったという触れ込みでした。
ところが、いざ伺うと、ラインのあちこちで釜を開けたり温度を測ったりと、人が作業していたんです。
「あれ、100%機械化したのですよね?」と聞いたら、「パンがね、うまく焼けなくなったんだよ」と言われました。
そして「今日みたいな感じの寒さの時はね、そんなに温度は上げなくていいんだよ」「今日みたいな湿度の時はね、そんなに水をカットしなくていい」と言うんです。
「え? 湿度の高さに種類なんてあるわけ?」と驚きました。どうやら、天候としての湿度のほかに、工場内の設備や搬入されてきたものが吸っている湿気の量とかもパンの焼き上がりに関係するそうなんです。
そういった状況に合わせた対応が必要なので、やっぱり人間が手で確かめて設定を変えるとかしないとパンがうまく焼けなくなったらしく、2割ぐらいを人力に戻したところ、安定して作れるようになったと言われました。
なので僕らがこの先AIでいろんなことができるようになっても、「やっぱり人間がやった方がいい」みたいな領域は残ると思うんです。それって何だと思いますか?
機械化によって私たちが「失ったもの」
加藤昌治(以下、加藤) バカ売れするものか、長続きするものはそうなるんじゃないかしら?
ある一定のクオリティを超えていくものには、AIには届かない人力が必要なんだと思ってます。人間って、なんというか微差を感じとるんですよね。
石井 なるほどね。昔、「一ノ蔵」という仙台の有名な酒造の方が、講演で皆に伊達家の昔のレシピを教えてくれたんです。
白身魚に醤油じゃなくて、梅を潰してごまを一緒にすって、お酒でコトコト煮込んだ梅肉ペーストを白身魚につけて食べると、そこのはかなくうまいのよと。
梅の風味と白身魚のいいところが出て、醤油だと消えちゃうような白身魚の旨さが出るのよと。
みんなよだれをジュルッと垂らしながら聞きました。
しかし、「そんな良いものがあったのに、なんで今は作ってないんでしょうね」と聞いたら、「大量生産に向かなかった」と。
機械で大量生産したくても、梅肉がパイプにベタベタくっつくし、わずかな香りの感度調節は職人の手仕事なら確認できるけど、大量のパイプを通っていく何万トンに対してはできないよ、と。
ということで僕らは、じつは機械化によって「美味しくないもの」を食べている社会になってるんだよねって言うんです。



