相手が部下だから、自分より年下だから、下請けの人だからといって、結論だけを伝えれば動いてくれると思うのは間違いです。人は、命令されたと感じると、たとえ内容が正しくても素直に従いにくくなります。逆に、理由や背景がわかり、自分の事情も聞いてもらえたと感じると、同じ結論でも受け止め方は大きく変わります。

 「この案件は明日の午前中に先方へ提出する必要がある」
 「そのため、今日中に数字だけ先に確認してほしい」
 「今抱えている仕事との優先順位はこちらで調整する」

 このように背景を共有したうえで依頼すれば、相手は納得しやすくなります。結論を曖昧にする必要はありません。大切なのは、結論に至る理由と、相手が納得して動ける余地を残すことなのです。

正しい指示でも動かない
部下が意欲を失うワケ

 このことは、医療の現場を対象にした研究からも示唆されています。

 米ロチェスター大学のジェフリー・ウィリアムズらは、高血圧、更年期障害、甲状腺機能亢進症などで定期的に通院している外来患者126名を対象に、医師への評価と服薬行動を調べました。患者には、担当医が自分の話を聞いてくれるか、治療や薬の処方を一方的に押しつけていると感じるかなどを尋ねています。また、処方された薬を実際に飲んでいるかどうかも確認しました。

 その結果、医師が自分の話を聞いてくれない、治療を押しつけてくると感じている患者ほど、薬を飲まなかったり、自己判断で量を減らしたりしやすいことがわかりました。

 医師は専門知識を持つ立場です。患者よりも医学的な知識があるのは当然です。しかし、だからといって「この薬を飲みなさい」と結論だけを押しつけると、患者は納得できません。結果として、医師の指示に従わなくなることがあるのです。

 一方で、患者の話を聞き、治療方針について相談しながら決める医師であれば、患者も納得して薬を飲みやすくなります。大切なのは、専門家としての結論を持たないことではありません。結論を伝える前後に、相手の事情や気持ちをきちんと扱うことなのです。

 同じことは、カウンセリングの研究にも見られます。

 米メリーランド大学のアリッサ・ジョーンズらは、断定的な話し方をするカウンセラーと、一方的に結論を出さず、相談者と一緒に考えるような話し方をするカウンセラーの音声を作成し、150名の女子大学生に聞かせて印象を調べました。

 すると、「あなたの問題はこれです」と結論を押しつけるようなカウンセラーよりも、「私はこう考えますが、あなたはどう思いますか」「どのような進め方を望みますか」と相談者の考えも取り入れるカウンセラーのほうが、好意的に評価されました。

 ここからわかるのは、「結論を言ってはいけない」ということではありません。むしろ、専門家としての見立てや考えは必要です。ただし、それを相手に押しつけるのではなく、相手の考えも聞きながら納得をつくっていくことが重要なのです。

 職場でもまったく同じです。