一流の上司や先輩は、結論を持っています。むしろ、判断が遅く、何も決められない人は信頼されません。しかし一流の人は、結論だけを乱暴に投げつけることはしません。

 「私はこの direction で進めたいと思っている」
 「理由は、納期と先方の要望を考えると、この案がいちばん現実的だから」
 「ただ、現場で気になる点があれば聞かせてほしい」

 このように、自分の考えを示したうえで、相手の視点も取り込みます。結論をぼかすのではなく、納得のプロセスを省かないのです。

タイパ重視の大きな代償
一流が惜しまないひと手間

 反対に、嫌われる人はここを省きます。

 「これでやって」
 「とにかく急いで」
 「理由はいいから、言われた通りにして」

 こうした言い方をされると、相手は自分の事情を無視されたように感じます。たしかに時間は少し節約できるかもしれません。いわゆる「タイパ」はよく見えるでしょう。しかし、短い時間を惜しんだ結果、相手の反発心を強めてしまうなら、長い目で見れば大きな損です。

 人に動いてもらうには、命令より納得が必要です。納得があれば、人は自分から動きます。納得がなければ、表面上は従っているように見えても、心の中では反発しています。仕事の質が落ちたり、次から協力してもらいにくくなったりすることもあります。

 この点は、スポーツの世界でも示されています。

 カナダのケベック大学のニコラス・ジレットらは、フランスの柔道家101名を対象に、コーチが選手の自主性を尊重しているか、それとも自分のやり方を押しつけているかを調べました。さらに、選手の動機づけや大会成績についても検討しています。

 その結果、コーチが自分の考えを押しつけるのではなく、選手の自主性を支えていると感じている選手ほど、練習への動機づけが高く、競技成績もよい傾向が見られました。

 優れたコーチは、選手を放任しているわけではありません。必要な指導はします。ただし、選手を自分の手足のように動かそうとするのではなく、選手自身が納得して動けるように関わっているのです。

 上司や先輩も同じです。

 部下や後輩が自分から動きたくなる関係をつくることは、特別な才能ではありません。大切なのは、結論だけを押しつけないことです。背景を説明し、相手の状況を聞き、必要なら一緒に優先順位を整理する。そのひと手間を惜しまないことです。

 たとえば、部下に仕事を依頼するときも、ただ「これをやって」と言うのではなく、次のように伝えたほうがよいでしょう。

「この資料は明日の会議で使うので、今日中に数字だけ先に確認してほしい」
「今の作業とぶつかるなら、こちらを優先して、別件は私から調整しておく」
「進め方で迷うところがあれば、15時に一度確認しよう」

 こう言われれば、部下は何を優先すべきかがわかります。自分の状況も見てもらえていると感じます。だから、前向きに動きやすくなるのです。

 結論から話すこと自体は悪くありません。むしろ、忙しい職場では必要な技術です。

 しかし、「結論から話せばいい」とだけ思っている人は危険です。結論を早く言うことに気を取られ、相手の納得を置き去りにしてしまうからです。

 本当に仕事ができる人は、結論を持ちながらも、相手に押しつけません。理由を伝え、背景を共有し、相手が動きやすい形に整えます。

 結論だけを押しつける人は、たしかに話は早いかもしれません。けれども、相手からは嫌われます。協力も得にくくなります。反発も生まれます。

 一方で、結論に至る理由を説明し、相手の事情も聞きながら進める人は、少し時間がかかっても、結果的に仕事がスムーズに進みます。人は、命令ではなく納得で動くからです。

 「結論から話す」は大事です。

 しかし、それ以上に大事なのは、結論だけで人を動かそうとしないことなのです。

【参考文献】
Gillet, N., Vallerand, R. J., Amoura, S., & Baldes, B. (2010). Influence of coaches’ autonomy support on athletes’ motivation and sport performance: A test of the hierarchical model of intrinsic and extrinsic motivation. Psychology of Sport and Exercise, 11, 155-161.
Jones, A. S., & Gelso, C. J. (1988). Differential effects of style of interpretation: Another look. Journal of Counseling Psychology, 35, 363-369.
Williams, G. C., Rodin, G. C., Ryan, R. M., Grolnick, W. S., & Deci, E. L. (1998). Autonomous regulation and long-term medication adherence in adult outpatients. Health Psychology, 17, 269-276.
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