世界の富裕層たちが日本を訪れる最大の目的になっている「美食」。彼らが次に向かうのは、大都市ではなく「地方」だ。いま、土地の文化と食材が融合した“ローカルガストロノミー”が、世界から熱視線を集めている。話題の書『日本人の9割は知らない 世界の富裕層は日本で何を食べているのか? ―ガストロノミーツーリズム最前線』(柏原光太郎著)から、抜粋・再編集し、日本におけるガストロノミーツーリズム最前線を解説。いま注目されているお店やエリアを紹介していきます。
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首都圏にもある! 「その土地ならでは」の食を味わえる店
ここまでは、主に首都圏・関東圏以外の地方の名店を紹介してきました。
しかし、「ガストロノミー=その土地ならではの食を求めて旅をすること」という定義にのっとると、それは大都市から離れた場所に限った話ではありません。都会からほんの少し足を伸ばすだけで、「その土地らしさ」を味わえるレストランはいくつもあります。
そこでこの章では、首都圏から日帰りで行ける注目の店を一挙ご紹介します。実は私達の身近なところにある、ガストロノミーツーリズムの世界をのぞいていきましょう。
地産地消フレンチ「L’Arbre(ラルブル)」
まずは、東京郊外でイチオシのお店を紹介します。それは、あきる野市にある「L’Arbre(ラルブル)」です。
最寄り駅は武蔵五日市駅。立川から電車で30分ほどです。店自体も駅から歩いて10分程度なので、アクセスは比較的よいといえるでしょう。
とはいえ、非日常感は抜群。電車を降りたときから、まず空気が違います。
思わず深呼吸をして周りを見渡すと、それほど遠くないと感じさせる山々が目に飛び込んできます。そして、耳には心地よい鳥のさえずり。明らかにのどかな雰囲気を感じながら、店へ向かって歩いていきます(ちなみに、このあたりは熊の出没情報もありました)。
どんどん周囲が寂しくなっていき、若干の不安が湧き上がってくるころに洋館が出現。
そこが、2023年にオープンしたラルブルです。建物は東京都指定有形文化財の「小机(こづくえ)家住宅」。西洋の建築に似せて造られたもので、幕末から明治初期のわずかな期間に流行った様式で、今となっては大変貴重な建物です。
シェフの松尾直幹(なおき)さんは、この近辺の出身で、帝国ホテルでスーシェフを務めた他、パリの三つ星「ル・サンク」でも研鑽を積みました。また、2014年「le Trophée Passion 2014 国際料理コンクール」総合2位、2020年「COPPA DEL MONDO DELLA GELATERIA 2020」ジェラートワールドカップ準優勝 日本代表メンバーなど、国際的に認められた実力派です。
そんな松尾シェフが目指すのは「身体と地球に優しい、東京の食材と文化を大切にするフレンチ×ローカルガストロノミー」。
もともとこの地域で生まれ育ったため、食材が豊富であることを知っており、いつかは地産地消のローカルガストロノミーの店を開き、西多摩のハブになって、この地域の豊かさを広めたいと思っていたそうです。
「東京の地産地消とは?」と思われるかもしれませんが、東京には東京湾も八丈島も大島もあります。したがって、実は食材が豊富。野菜はシェフが自分で作っていますし、東京和牛や東京しゃも、豚肉のTOKYO X、ヤギも近隣で手に入ります。チーズやパンを作っている仲間や、シーズンになれば秋川渓谷で鮎を釣ってくる職業漁師もいるので、地産地消に困ることはありません。ただし、ジビエだけは埼玉産だそう。「このあたりはジビエも捕れるのですが、いい処理施設が東京にないので、これだけは埼玉産になっています」と松尾シェフは笑います。
料理は、ランチもディナーもコース料理が基本です。私がいただいた夜のコースは、島寿司を再構築したものや、畑で採れた野菜のローストをピューレにしたもの、魚醤に漬けた鮎の干物に東京しゃものパテをはさんだものなど、東京食材のオンパレード。
その中でも特にユニークに感じたのは「のしこみうどん」です。見た目は山梨のほうとうに似ています。「山梨の文化が地理的に近い多摩地区に伝播したのでは」と松尾シェフは解説してくれましたが、ラルブルではほうれん草や小松菜、カブなど野菜のピューレをスープに使うフレンチに仕立てていました。
地産地消にこだわると、場所によっては、少ない食材でコースを組み立てるのに無理が生じることがありますが、松尾シェフの引き出しの多さと食材の豊富さのおかげで、まったく不自然さを感じませんでした。
東京の奥深さを感じられる、至極の店です。
1000坪の日本庭園×創作フレンチ「TERAKOYA」
都内の住宅地にはなりますが、「非日常感」という意味では引けをとらない店を1軒紹介します。武蔵小金井にある「TERAKOYA」というフレンチです。敷地は約1000坪。日本庭園の美しい景色を眺めながら、伝統と革新が調和した本格フレンチを楽しめます。
料理は四季に合わせて変わり、一度メニューに載った皿は、その後再びメニューに登場することはありません。初代はフランスに絵画修業に出かけて料理に出会ったそうで、今のシェフは3代目。彼も独自の料理理論を持っており、創作数は3000を超えているそう。食の多様性を感じられる貴重なお店です。
『日本人の9割は知らない 世界の富裕層は日本で何を食べているのか?』では、首都圏でローカルガストロノミーが味わえるお店も多数紹介しています。
※本記事は、『日本人の9割は知らない 世界の富裕層は日本で何を食べているのか? ―ガストロノミーツーリズム最前線』(柏原光太郎著・ダイヤモンド社刊)より、抜粋・編集したものです。この記事の情報は、本書の発売時のものになります。






