だけどテーブルの上にはコーヒーカップが2個ありました。どうも先客がいたことがバレています。僕が着く前にその先客を帰らせて、自分が如何に早くから待っているかを演出したいのです。
もう、いじめというか、三島さんにすれば大芝居を打った遊びです。そんな三島さんの内心を僕はすでに読んでいますが、この場では謝るしかないのです。
アポなしで現場に現れる!?
仕事も遊びのようにこなす三島
また別の日。三島さんに歌舞伎「椿説弓張月」のポスターを頼まれました。
〆切はずっと先ですが、突然僕の仕事場にアポなしでいきなりやってきて、「おっ、俺の仕事をやってくれているなあ」とイヤミを言われます。首をすくめる僕を見て三島さんは楽しくて仕方がないようです。三島さんにとっては仕事も遊びです。
別のある日。三島さんに僕の作品論を書いていただくことになって、自宅に原稿をいただきに行くと、屋上に面した双子のような円型の部屋が2つあって、その片方の部屋で「今、書くから待ってよ」と、編集者と僕の2人の目の前で、足を組んで、小さいサイドテーブルで、4、5枚の原稿をアッという間に脱稿してしまいました。
ほんの数分のように思われましたが、読んでみると、かなり熟考をこらした文章です。いくら三島さんでもあんなに早くは書けません。すでに書き上げた文章を、僕たちの目の前で反復させたに違いないのです。
時にはこのような芸当のパフォーマンスをして見せて、「どうだ!」とわれわれを驚嘆させて、遊んでいるのです。
また、ある別の日、銀座のレストランでの話です。三島さんが予約した席は、目立たない奥の席ではなく、入口の真正面のえらい目立つ席でした。にもかかわらず、店内の客は三島さんの存在には気づいていません。カウンターを背にした一番目立つ席についているにもかかわらず、誰ひとりとして三島さんの存在に気づいていないのです。
『運命まかせ』(横尾忠則、新潮社)
その時、スックと席を立った三島さんはレジの横にある赤電話で、どこかに電話を掛け始めました。店内いっぱいに響くような大声で、「もし、もし、三島由紀夫ですがね……」と。その声に驚いた店内のほとんどの客は、声の主に視線を投げました。
そしてほぼ全員が、そこに三島由紀夫を目撃して、驚いています。電話の内容は、どうでもいいような内容で、店内の客に存在を気づかせるのが目的です。
ザワ、ザワしていた客も、三島さんの存在に気づいたあとは静かになって、僕達の席の三島さんの声だけが店内に響いています。やっと目的を達成した三島さんは満足顔で、ご機嫌でありました。







