上九一色村の教団施設にいた頃、オウムの修行はつらいものではなかった。むしろ学校に行かず、修行という非日常的な体験をしながら、自然に囲まれた環境で過ごす日々は、子どもだった彼にとって魅力的な生活だったと振り返る。しかし、それはわけもわからずに親に連れて来られた子どもたちが、何の疑いも持たずに影響を受けてしまうという、「カルト宗教2世」の問題を如実に表しているものだった。
「子どもだから、何ひとつ現実社会の娯楽とか、楽しいことを知らない。だから、オウムで体験するすべてが新しくて、楽しいことに感じる。大人になった今、同じことをやれと言われたら、ふざけんなってなるけど、子どもは順応してしまう。まわりの大人は本当にかわいがってくれたし、遊んでくれて、いい人ばかりだった。子どもからすれば、なんて楽しいところなんだろうって思うよね。現実世界の酸いも甘いも知らなかったから」
「頭がグワングワンして…」
儀式と称して飲まされたもの
さらに、周囲の大人がオウムの教えを忠実に守り、信じている様子を見て、子どもたちも無防備に追従していたという。
「戦時中の日本も、あんな感じだったのかなと思う。右向け右と言えば、みんな同じほうを向いてしまう。イペリット(毒ガス)やサリンが何かというのは説法に出てきていて、自分たちの感覚からすると、それらは攻撃をしてくる敵への対抗手段だと思っていた。逃げ出したら地獄に堕ちるという教えと、言われたことをやれば死んだ後にいいところにいけるっていう教えがあるんだから、洗脳されている人は頑張ってしまう」
教団施設での生活には、なんの不自由も感じていなかった。修行の期間中は食事が制限されることはあっても、それ以外は満足のいくものだったという。さらに、毎月1000円ほどのお小遣いも与えられ、購買係の大人に欲しいものを依頼して、買ってきてもらうこともしばしばあったと話す。ほかにも近くの清流で川遊びをしたり、プロレスごっこをしたりと、子どもらしく毎日を過ごしていた。
『オウム真理教の子どもたち』(NHK「クローズアップ現代」取材班、集英社インターナショナル)
しかし、オウム真理教は“犯罪組織”としての道へ着々と歩を進め、その影は子どもたちにも伸びていった。そのひとつが「イニシエーション」だ。教団が、麻薬のLSDや覚醒剤を宗教儀式と称して信者に投与していたのだ。彼もまたその被害者の一人だった。
「イニシエーションのときに飲むヤツ、サットバレモン(編集部注/かつてオウム真理教が関連施設で製造・販売していたレモン風味の粉末ジュースの名称。オウム真理教の修行のひとつである「イニシエーション」ではLSDを溶かしたものが使用される)っていうんだっけ?飲んだことあるよ、中学生になってから。飲むのは中学生以上だった気がする。頻繁に飲むヤツではなかったけど、自分も1回か2回程度飲んだと思う。頭がグワングワンして、地面がひっくり返ったみたいな感じ。気持ち悪かったなぁ……」
健一さんは、ほかの人が飲んでいるところを直接見たことはない。しかし、叫び声が聞こえてきたことは、今も鮮烈な記憶として残っている。







