提灯のある夜の景色写真はイメージです Photo:PIXTA

データが重要だといわれる昨今。しかし、ホンダの創業者である本田宗一郎は、市場データをほとんど信用していなかったという。では、本田が新しい商品をつくる時、頼りにしたものとは何か。エピソードからひもといてみよう。(記者 栗下直也)

ホンダの創業者・本田宗一郎が
新商品をつくる時に信じたもの

「市場ではなく、人を見ろ」

 ホンダの創業者・本田宗一郎が、生涯にわたって言い続けた言葉である。

 いまや、わからないことがあればAIに尋ねれば、数秒で「最適解」が返ってくる。便利な時代だ。だが、その答えが全て、過去のデータから弾き出されたものだということを忘れてはいけない。データが教えてくれるのは、あくまで「これまで」にすぎない。「これから」何が売れるかまでは、教えてくれないのだ。

 半世紀以上も前に、このことを見抜いていたのが本田だった。

 本田は「技術のホンダ」を率いた人物として知られる。ところが、本人は「会社で一番大事にしているのは技術ではない」と公言してはばからなかった。

 重視したのは、いかにつくるかではなく、いかに売るか。「つくれば物が売れる」とされた昭和30年代に、すでにその先を見ていた。

 そして意外なことに、本田は市場データをほとんど信用していなかった。

僕は、市場調査を、過去の足跡をたしかめること、自分の意見を大勢の社員に納得させる場合の手段として使うこと以外には考えていない
出典:本田宗一郎『ざっくばらん』(PHP研究所)

 市場データは過去の記録であり、社内を説得するための道具にすぎない。これはそっくりそのまま、いまのAIにも当てはまる。

 データもAIも、過去を集計するのは得意でも、未来そのものを言い当てられるわけではない。市場データだけを頼りに意思決定する令和の管理職には、耳が痛い言葉かもしれない。

 では、本田は売れるアイデアのヒントをどこで探したのか。