後発企業のYouTubeが
業界トップに立てたワケ

 テクノロジーのコンテキストにおけるタイミングの問題を考えるにあたって、ここではYouTubeのケースを取り上げてみましょう。

 YouTubeの成功も、優れた発想や開発力だけでは説明できません。むしろ、それ以前の無数の動画共有サービスが失敗してきた事実を踏まえれば、YouTubeは「インフラとテクノロジーの水準が整い、人々の行動が変わりつつあったちょうどその時」に登場したがゆえに社会に受け入れられた、コンテキストに支えられた成功例だと言えます。

 YouTubeがサービスを開始したのは2005年2月のことですが、実はそれ以前にも、動画共有やストリーミングのアイデアは存在していました。

 例えば、米国では1990年代後半から「Broadcast.com」「RealPlayer」などのサービスが登場していましたが、いずれも動画ファイルの重さや再生環境の不安定さ、アップロードの複雑さなどにより、広く普及するには至りませんでした。

 しかし、YouTubeが成功した2005年前後は、ちょうど以下の要因が同時に整いつつあるタイミングでした。

・ブロードバンド回線の普及率が50%を超えた
・Flash技術の進化によってブラウザ上でスムーズな動画再生が可能に
・携帯電話やデジカメによる動画撮影の一般化
・SNSの普及により、個人が自己表現をする欲求が拡大

 これらはそれぞれが独立したコンテキストをなすわけですが、これらのコンテキストの足並みが揃ったタイミングにおいてYouTubeは事業をスタートさせたのです。

 重要なのは、YouTubeが決して「技術的に最も優れていた」わけではなかったということです。むしろ、サービス開始当初はシンプルで粗削りでした。それでも勝てたのは、「テクノロジーのコンテキストとフィットした」からに他なりません。

 もし5年前、2000年にYouTubeがスタートしていれば、動画は重すぎ、再生は不安定で、投稿者も少なかったでしょう。逆に5年遅れていれば、競合のFacebook VideoやVimeo、ニコニコ動画(2006年、日本で開始)に埋もれていたかもしれません。

ジョブズがiPhoneを
あえて待ってから出した理由

 同様のことはiPhoneにも言えます。多くの人はすでに忘れてしまっていますが、iPhone以前にもタッチパネル形式のインターフェースを用いた携帯電話は存在していました。しかし、当時のタッチパネルは技術水準として未熟で、ストレスなく指で操作することができませんでした。

 スティーブ・ジョブズの凄さは、iPhoneという製品のアイデアそのものよりも、製品を取り巻くテクノロジーのコンテキストを踏まえて、しかるべき時期まで待った上で、満を持して出したという「タイミングのうまさ」にこそあったと言えるでしょう。

 ピーター・ティール(編集部注/元PayPal最高経営責任者)はその著書『ゼロ・トゥ・ワン』において「市場に一番乗りすることが重要なのではなく、適切なタイミングで市場に入ることが重要だ」と語っています。重要なのはコンテキストであって、単に「早い」ということが有利であるとは限らない──むしろ、しばしば「早すぎること」は致命傷になっているのです。

 この指摘は「テクノロジーのコンテキスト」という問題を考える上で、非常に示唆に富んでいます。