素人の身軽さは武器になる

 彼らが示した若い企業の優位は、「構造・認知・位置」という3つの軸に整理される。

 固まった業務ルールや過去の成功体験のわなに縛られないという構造的優位。組織がフラットで、現場の気づきが政治的抵抗を受けず全体へ高速で広がるという認知的優位。国内顧客や旧来のパートナーとのしがらみが薄く、大胆な方針転換に障害が少ないという位置的優位――。

 素人の身軽さが、それぞれ別の理屈で武器に変わるのだ。

 そして決定的なのは、既存のやり方を磨き上げる「深化」の局面ではベテランの経験が勝るが、文化もルールも違う未知の市場へ踏み込む「探索」の局面では、その経験がむしろ足かせに変わると論じた点である。

 誰も正解の台本を持たない環境では、過去の正解は捨てねばならない荷物になる。手探りで実験と即興を繰り返せる新興企業こそが、最大の学習レバレッジを握るのだ。

 新しさも未経験さも、克服すべき弱みではなく、激変する環境を生き抜くための最大の適応資産なのだ。

素人が成功するために必要なこと

 これは筆者がいるメディアの業界でも同じだ。オールドメディアなどと揶揄される新聞が、赤字の構造を抱えているのに、なす術なく、信頼できる調査報道にはお金がかかるなどと泣き言ばかりをいうわけである。

 あらゆる局面が変わっているのに、同じことをやっていることの方が奇妙きてれつである。

 稲盛氏の言葉と、この論文は、まったく違う場所から出発して同じ結論に行き着いている。一方は京都の町工場で抵抗器やコンデンサを手づくりした男たちの背中を見てきた実感であり、もう一方は世界中の企業データを解析した学術研究である。

 それでも両者は、「素人であること」を欠損ではなく、「白紙」という名の武器として捉える点で完全に一致する。

 ただ、素人であることは、それ自体では何の保証もしない。白紙はあくまで白紙であって、放っておけば何も描かれない。常識に縛られない自由も、ルーティンに縛られない身軽さも、それだけでは可能性のまま終わる。

 構造的な優位を、本物の学習へ、本物の事業へと変換する燃料が必要だ。それは何か。