年間100世帯以上の相談にのる発達障害専門のFPで、ADHD当事者でもある岩切健一郎氏が書いた『発達障害かもだけど、お金のこと ちゃんとしたい人の本』が発売中だ。本書には「ここまで寄り添ってくれるお金の本は初めて!」「お金に苦手感のある人は全員読んだ方がいい」など、発達障害の有無にかかわらず、多くの口コミが寄せられている。
同書の刊行に寄せて、著述家でADHD当事者でもある小鳥遊(たかなし)さんに寄稿いただいた。(ダイヤモンド社書籍編集局)
※現在、正式な診断名は「発達障害」から「神経発達症」へ変更になっていますが、この連載では広く知られている「発達障害」という表現を用います。

【事務仕事】「他の人は簡単にできる事が、なぜ自分は苦手なのか…」と思ってる人へ伝えたいことPhoto: Adobe Stock

練習場代を立て替え続けた黒歴史

 大学時代、所属していたオーケストラサークルで「練習場係」をやっていたことがあります。
 係の仕事に「練習場代の支払い」がありました。これが私には鬼門でした。

 いったん立て替えて、
 ↓
 領収書を受け取って、
 ↓
 サークルの会計係に精算してもらう。

 このシンプルな流れ。とにかく、これができませんでした。

 領収書は財布の中でどんどんクシャクシャになっていきました。
「あとで精算の申請をしよう」と思っているうちに時間が過ぎ、勝手に引け目を感じてどんどん気まずくなる。
 そして、さらに時間が経ち、領収書は、よりクシャクシャ化が進み、もはや紙屑に近い見た目になっていく。

 そうなった領収書は、他のクシャクシャ書類とともに、財布から出されて家の引き出しに入れられ、別の書類に紛れていきます。どこの練習場の、いつの領収書が、どれくらいあるのか分からなくなっていきます。

 金額も馬鹿になりません。
 演奏会は年に3回。
 1回の演奏会で練習は20回前後。
 練習場代は1回あたり平均して1万円程度。
 ざっと計算しても年間60万円となります。

 当然、そんな金額を自分のお金で払えるわけもなく、親に「いったん立て替えるお金が必要だから」と頼んでお金をもらっていました。もちろん、精算できないので返せません。

 今思えば、かなりひどい話です。
 当時の私は、発達障害という言葉も、ADHDという概念も、ほとんど知らず、自分に何が起きているのかを説明できませんでした

「なんとかなる」から、
「いや、でもできない」となり、
「なんで自分はこんなにだらしないんだ」と続く一連の流れを延々と繰り返し、
 黒歴史となっていきました。

 そして黒歴史の積み重ねに比例して、自信も失っていきました

「ちゃんとする」ではなく、仕組みで解決する

『発達障害かもだけど、お金のこと ちゃんとしたい人の本』には、こんな箇所があります。

困りごとを、特性によるものなのか、そうでないのかに分けることは非常に大切です。
なぜなら、それぞれの困りごとに対するアプローチがまったく異なるからです。

『発達障害かもだけど、お金のこと ちゃんとしたい人の本』(P.38)

 本の中では、「ついお金を使ってしまうので貯金できない」と困っている人に、「毎月3万円貯めましょう」と言っても、それは解決にならない、という話が出てきます。
「これは、私の話だ」と思いました。

「領収書はなくさないように、財布にきれいに畳んで入れておきましょう」
「会計係に早めに連絡しましょう」
 というアドバイスは、もちろん、一般論としては正しいのです。

 でも、「やるべきことが分かっている」ことと、「それを自分が実行できる」ことは、まったく別の話です。
 そして、発達障害の特性が絡む困りごとは、このズレが起きやすいのです。
 予定を見通して先に会計係へ連絡したり、領収書をなくさず保管したり、といったことが当時の私にとっては苦手が集中する領域でした。
 だから、本当は「ちゃんとする」方向に努力するよりも、仕組みで逃がすべきだったのです。

 たとえば、
「領収書を財布に入れず、もらった瞬間に、専用の袋や箱に入れる」。
 あるいは、
「練習場代の支払いと精算だけは別の人にお願いする」。
「支払い予定を自分ひとりで管理せず、会計係にも共有する」。

 今なら、いろいろな方法を考えられます。
 でも当時の私は、「自分がちゃんとしていないから悪い」としか考えられませんでした。

 困りごとを、特性によるものなのか、そうでないのかに分ける。
 これは、自分を甘やかすための考え方ではありません。
 むしろ、問題解決の精度を上げるための考え方です。特性上、どうしても起きやすいことがある。そこに根性論をぶつけても、うまくいかないことが多い。
 だったら、戦略を変えるしかありません。

 人に頼り、物に頼り、仕組みに頼る
 自分の意思や記憶力だけに頼らない

『発達障害かもだけど、お金のこと ちゃんとしたい人の本』は、まさにその「戦略を変える」ための本だと思いました。お金の本ですが、単に節約術や家計管理のテクニックを教える本ではありません。

 発達障害の診断がある人だけでなく、お金の管理が苦手な人領収書や精算が苦手な人貯金や支払いの管理で何度も失敗してきた人、そして、「自分はだらしない」と思い込みすぎている人に、ぜひ読んでほしいです。