スタートアップが成功できるか、失敗して消えてしまうか? それを決めるのは、Product Market Fit(PMF:プロダクト・マーケット・フィット/市場で顧客に愛される製品・サービスを作ること)を達成できるかどうかにかかっている。『増補改訂版 起業の科学 スタートアップサイエンスVer.2』(田所雅之著、ダイヤモンド社)は、起業家の8割が読み、5割が実践する起業本のベストセラー『起業の科学』を9年ぶりに大改訂した最新版。本連載では同書から抜粋して、スタートアップの成長を加速するポイントについて、わかりやすくお伝えしていきます。
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ツーサイデッド・マーケットはプレイヤーを分ける
電動キックボードを設置する場所の提供者と利用する人がいて成り立つLuup(ループ)や、商品を売る人と買う人がいて成り立つオークションアプリのメルカリ、部屋を貸す人と借りる人がいて成り立つAirbnb(エアビーアンドビー)のように、サプライ(供給)サイドとデマンド(需要)サイドのカスタマーがいるビジネス市場のことをツーサイデッド・マーケット(two-sided market)という。
Luupのような電動キックボードシェアリングサービス、メルカリに代表されるCtoCのマーケットプレイス型サービス、Airbnb(エアビーアンドビー)やUber(ウーバー)のようなシェアリングサービスなどがツーサイデッド・マーケットに該当する。
ツーサイデッド・マーケットは、需要と供給という両サイドのカスタマーが増えるほど両者にとってサービスの価値が高まっていく(これをネットワーク効果という)。
Luupの利用者が増えれば設置場所も増え、設置場所が増えて便利になるとさらに利用者が増えるような、ニワトリと卵の関係がある。
したがって、ツーサイデッド・マーケットのビジネスモデルでは、両サイドに高い価値を提供する必要がある。
両サイドのそれぞれの立場に分けて考える
一方のことばかり注視するのは禁物だ。そこで、リーンキャンバスを埋めていくときも、両サイドのそれぞれの立場に分けて考えることが肝心だ。
参考までに、Luupのリーンキャンバスを作成すると、以下のような図になる(図表1-4-3)。
このように、パートナー(設置場所提供者)とユーザー(サービス利用者)それぞれの課題、提供価値、チャネルなどが見えてくる。パートナーにとっては集客効果や土地活用、ユーザーにとっては便利な移動手段とコスト削減が主な価値となる。
リーンキャンバスを作るときは、上図にあるように「設置場所提供者」と「サービス利用者」と「共通」の3色で付箋を使い分けると論点を整理しやすい。
そして最終的には、「設置場所提供者」「サービス利用者」「プラットフォーム提供者(Luup自身)」が三方よし、つまりトリプルウィン(Win-Win-Win)の関係になるかを検証する必要がある。
体裁の整った事業計画書はいらない
大事な点なので繰り返すが、スタートアップのシード期には体裁の整った事業計画書はいらない。
このリーンキャンバスのように簡単に書けて簡単に共有できるツールをうまく使い、とにかく効率よくPlan Aを作成することを心掛けたい。
マウリャ氏は、ある講演でこう指摘している。
「スタートアップにとって最も貴重な資源は時間である。リソースが無くなる前に、最も多く学習したものが勝つ」と。
Plan Aの作成は、学習を加速させるのに必須となる仮説構築のためにメンバー全員で行うべきものである。
“スタートアップにとって最も貴重な資源は時間である。リソースが無くなる前に、最も多く学習したものが勝つ”
ーアッシュ・マウリャ『Running Lean』著者
リーンキャンバスはチームの共通言語
リーンキャンバスはPlan Aを形にするために最適のフレームワークと述べたが、お薦めする理由は簡単に書けるからだけではない。簡単かつ網羅的にビジネスモデルを把握できるからである。
「ビジネスモデルが何かを10人に尋ねたら、常に10通りの答えが返ってくる」とスティーブ・ブランク氏が著書『The Startup Owner’s Manual』で指摘するように、ビジネスモデルそのものの定義は、人によって見立てが変わる。
たとえば、営業出身者だったら「顧客のためのモデルだ」と言うだろうし、エンジニアだったら「ソリューション重視のモデルだ」と言うかもしれない。
創業メンバー同士が互いの認識や前提条件のズレを持ったままでは議論が平行線をたどる恐れがあり、さらに組織としても効率的に動けない。
その点、リーンキャンバスでは、「誰のどのような課題を解決するか」が主要な論点となるので、それぞれの見方を持つメンバー同士の目線を合わせやすい。
リーンキャンバスをチームの共通言語にすれば、効率的なコミュニケーションが取れる。自分たちが今どのような仮説を立てて、どこに向かっているのかを明確にできる。
(本稿は『増補改訂版 起業の科学 スタートアップサイエンスVer.2』の一部を抜粋・編集したものです)
株式会社ユニコーンファーム 代表取締役CEO
1978年生まれ。大学を卒業後、外資系のコンサルティングファームに入社し、経営戦略コンサルティングなどに従事。独立後は、日本で企業向け研修会社と経営コンサルティング会社、エドテック(教育技術)のスタートアップの3社、米国でECプラットフォームのスタートアップを起業し、シリコンバレーで活動した。
日本に帰国後、米国シリコンバレーのベンチャーキャピタルのベンチャーパートナーを務めた。また、欧州最大級のスタートアップイベントのアジア版、Pioneers Asiaなどで、スライド資料やプレゼンなどを基に世界各地のスタートアップ約1500社の評価を行ってきた。これまで日本とシリコンバレーのスタートアップ数十社の戦略アドバイザーやボードメンバーを務めてきた。
2017年、新たにスタートアップの支援会社ユニコーンファームを設立、代表取締役社長に就任。その経験を生かして作成したスライド集『スタートアップサイエンス2017』は全世界で約5万回シェアという大きな反響を呼んだ。
主な著書に『起業の科学』『入門 起業の科学』(以上、日経BP)、『起業大全』『「起業参謀」の戦略書』(ダイヤモンド社)など。





