
はじめてのお給料
りん「ツヤさんは看護婦になるのが夢なんです」
安達(川島 鈴遥)「ここにいる人たちはみんなそうです」
微妙な空気。誰もが多江のように応援気分にはなれない。
講義を受けられるのは仕事の空き時間や終わったあと。
「皆さん温かく迎えてください」とりんが紹介する。
だがなんとなく温度差がある。
りんたちは生きていくために看護婦を目指したが、今の看護科の生徒たちはお金に困っていなさそう。みんな、看護婦になることが「夢」なのだ。
「夢」という言葉の意味を知ってるくらい英語ができて、まだ世間で白い目で見られている看護婦になることを夢にするくらい看護婦に対する知識がある。
「そんな優秀な子たちを教えられるのかな?私たちに」と直美(上坂樹里)は当惑を隠しきれない。
確かに。りんや直美はわずか2年先輩なだけで、後輩たちはスタートの時点ですでにりんたちのスタートよりも進んだところにいる。それでもバーンズ先生(エマ・ハワード)の夢をかなえるためにも頑張るしかない。
そうこうしているうちに、初めての給料日がやってきた。
封筒からお札を出して数えると、思っていたのと違った。
アメリカでは30円と聞いていたが、日本では月10円。3分の1も少ない。
でもここはアメリカではない。日本の東京だ。月10円もらえたら十分。10円でも女の給金ではいい方だ。そう納得しようとするが、多江は「先生もやってるのに」と不満を感じ、「決めた!私出世して看護婦の待遇を改善する!」と奮起する。
以前の彼女は不満ばかりが先立っていたが、不満を自分の行動で転換できるように成長している。
ちなみに、前作『ばけばけ』では、『風、薫る』と同じ明治時代、ヘブンの家の女中奉公は20円。旅館の奉公は90銭、小学校の教師は4円、ヘブンの月給は100円。主人公のトキは女中で20円もらっていた(いずれも月給)。
また、『ばけばけ』101回のレビューで『明治大正昭和 値段史年表』(朝日新聞社)から引用した給料はこうだった。
巡査の初任給(明治24年):8円
(現在の)都知事の給料(明治24年):4000円
公務員の初任給(明治27年):50円
国会議員の報酬(明治22年):800円
日雇い労働者の賃金(明治25年):全国平均18銭
こう見ると、公務員の初任給が50円に対してりんたちの10円は仕事量や内容にしては安い。日雇い労働者と比べれば高いものの、公務員初任給との差は大きい。当時としては暮らしていける額だったのだろうが、専門職として見ると安い。格差を感じさせる数字である。
また、当時、女性の職業は限られていた。女性の給金ではいいほう、というセリフもある。
では、女性ができる仕事の給料を見てみよう。
小学校教員の初任給 明治19年:5円、明治30年:8円(男女差があったかは不明)
芸者の玉代(明治45年) 芸妓:25銭、半玉:15銭(2時間単位)
遊女の揚代(明治14年)1円(吉原遊郭での最高級の大店での泊まり最高料金)
なお、芸者の玉代や遊女の揚代は本人の給料ではなく、客が支払う料金である。実際、女性たちにはいくら入るのかはわからない。単純な比較はできないが、当時の金銭感覚を知る手がかりにはなるだろう。
もちろん女性の働き口はほかにもあったが、当時は職業選択の幅が現在ほど広くなかった。そうしたなかで、専門教育を受けて働く看護婦という選択肢が生まれたことは画期的だったといえるだろう。







