「話がうまい人」は、頭の回転が速い人ではありません。質問された瞬間に考えているのではなく、普段から自分の頭の中を整理している人です。『言語化だけじゃ伝わんない』では、その方法を「地図づくり」と表現します。今回は、その思考整理術を詳しく紹介します。(構成/ダイヤモンド社・種岡 健)

頭の中は「整理」ではなく「見える化」する
「生成AIについてどう思いますか?」
こんな質問を突然されたら、どうでしょうか。
何か言いたいことはある。
でも、何から話せばいいかわからない。
「えーっと……」と言いながら、頭の中で考え始める。
そんな経験は、多くの人にあるはずです。
私たちは、この状態を「言語化が苦手」と考えがちです。
でも、『言語化だけじゃ伝わんない』という本が指摘するのは少し違います。
問題は、言葉ではありません。
頭の中が整理されていないことです。
たとえるなら、本棚に本がぎゅうぎゅうに詰め込まれていて、どこに何があるかわからない状態です。
蔵書はたくさんある。
でも、必要な本を取り出せない。
だから話せないのです。
まず必要なのは、本を増やすことではありません。
本棚の中身を全部取り出して、「自分は何を持っているのか」を確認することです。
本書では、その方法をこう説明しています。
考えを紙に書き出すといっても、箇条書きや文章で書き出すわけではありません。
整理しようとせず、とにかく、まずは思いついた単語を書き出しておくのです。
頭の中に、どんなラベルがあるか、確認しておくということです。
――『言語化だけじゃ伝わんない』より
ここで重要なのは、「整理しようとしない」という点です。
私たちはメモを書くと、「きれいに書こう」「順番を整えよう」としてしまいます。
しかし、それでは本当の頭の中は見えてきません。
散らかっていていい。むしろ散らかっているほうが自然です。
頭の中も最初は散らかっているのですから、そのまま紙に出せばいいのです。
思考にも「棚卸し」が必要である
本書では、この作業を「棚卸しメモ」と呼んでいます。
企業でも決算前には必ず棚卸しをします。
商品がいくつ残っているのか。
何が売れていて、何が余っているのか。
それが、わからないままでは経営判断ができません。
頭の中もまったく同じです。
自分では「生成AIについて結構知っている」と思っていても、紙に書いてみると、
・ChatGPT
・画像生成
・著作権
・仕事への影響
くらいしか思い浮かばないかもしれません。逆に、
・半導体
・学習データ
・GPU
・電力消費
・各国の規制
などはほとんど知らないことに気づくかもしれません。
つまり、棚卸しとは「知らないことを発見する作業」でもあるのです。
本書では次のように説明しています。

「生成AI」のことで思いつく単語を丸で囲んで、適当にバラバラと書いていきます。
思いついたものを紙の真ん中に書いていきます。
このとき、なんとなく似たようなことだと思うものは近くに書きます。
全然似ていないと思うものは少し離して書いていきます。
そして、生成AIと関係あるかわかんないけどなんか関係ありそうというものは紙の端っこに書いておきます。
頭の中で思っているモノ同士の距離感をあらわしてみましょう。
私の場合、こんな感じになりました(右の図)。
これを「棚卸しメモ」と名付けておきます。
棚卸しメモは汚くても問題ありません。
とにかく思いつく限り書き出していきましょう。
――『言語化だけじゃ伝わんない』より
この「距離感」が、とても面白いポイントです。
人間の頭の中では、「これは近い」「これは別ジャンル」という感覚がすでにあります。
その感覚を紙の上に再現しているのです。
思考整理には「知識」と「考え」の2種類がある
ここで本書は、非常に重要なことを言います。
現実の地図も、何を重視するかによって図法が異なります。
面積を重視する描き方もあれば、方位を重視する描き方もあります。
頭の中を地図にするときも、同じです。
重視するものによって地図の描き方が変わってきます。
方法のひとつ目は、知っていることを整理するための描き方。
もうひとつは、自分の考えを整理するための描き方です。
知識と思考。どちらに重点を置くかによって、地図が変わってくるということです。
――『言語化だけじゃ伝わんない』より
この違いを理解すると、思考整理がぐっと楽になります。
たとえば、「生成AI」について知識を整理するなら、技術、法律、サービス、社会への影響などを分類していきます。
一方、自分の考えを整理するなら、「便利だと思う」「怖いと思う」「仕事は変わる」「教育は変えるべき」など、自分の意見を並べることになります。
同じテーマでも、作る地図はまったく違うのです。
「似たもの」をまとめると世界が整理される
棚卸しが終わったら、次は分類です。
本書ではこう説明しています。

あらためて、書き出したものを見てみましょう。
自分が生成AIについて知っていることが、雑にちらばっています。
項目ひとつひとつを見て、似たものを探します。
似たものをいくつかのグループにまとめて、言葉でそのグループに名前をつけていきます。
「似たようなものをぐるっと囲んでラベルを貼る」のです。
失業や業務効率は「影響」という言葉でまとめてみます。
「サービス」でまとめられそうなものもあります(右の図)。
――『言語化だけじゃ伝わんない』より
これは、本書全体で繰り返し語られてきた「言葉とはラベルである」という考え方の実践です。
私たちは普段から無意識に分類しています。
「仕事」「趣味」「家族」「友達」
どれもカテゴリーです。
でも、自分自身で分類をやってみると、新しい発見があります。
「自分は技術より社会問題に興味があるな」
「サービスばかり見ていて、仕組みを知らないな」
そんなことが見えてくるのです。
分類とは、知識を整理するだけではありません。
自分自身を知る作業でもあるのです。
ツリー図にすると「抜け」が見える
分類したら、今度は「ツリー図」にします。
本書ではこう続きます。
まずは「生成AI」を一番上に書きます。
その下に「まとめる範囲の広い言葉」を入れていきます。
ツリー状にすると、自分の知識の偏りや抜けに気づきやすくなります。
「自分は影響に関心が強いなとか」「仕組みのことはほとんど知らない」とか。
「法律関連のことも、半導体のことも抜けているぞ」とか。
何かありそうだけど、何があるかわからないところには「?」をつけておきましょう。
わからない部分はそのまま「?」でかまいません。
すると、このような形のツリーができます(下の図)。

ここで大切なのは、「?」を書くことです。
多くの人は、知らないことを書くのを嫌います。
でも、本当に頭のいい人は逆です。
知らない場所がわかっている人ほど、次に学ぶべきことが見えています。
研究者が論文を書くときも、「今後の課題」を必ず書きます。
学ぶ人ほど、「わからない」を大切にしているのです。
地図があると「話す内容」を選べるよう
本書では次のように説明しています。
「生成AIについてどう思いますか?」
先ほどこう質問されたとき私は、「何を言おうか」と考えてフリーズしてしまいました。
でも、この地図を見ると、話せることが複数あったことがわかります。
最初に5つも分かれ道があったのです。
この中から話す内容をひとつ決めなければいけなかったということです。
棚卸しをして、ツリー状の地図に整理したからこそ、分かれ道に気づけたのです。
――『言語化だけじゃ伝わんない』より
ここが、この章の核心でしょう。
話せない人は、「話すことがない」のではありません。
話せることが多すぎるのです。だから止まる。
一方、地図がある人は、「今日は影響について話そう」「今日は法律について話そう」と選べます。
つまり、考えながら話すのではなく、地図から選んで話しているのです。
深掘りすると知識は何倍にも育つ
さらに、本書では一歩進めてこう説明します。
すると、そこにもまた分かれ道があります。
それぞれについても同様に知っていることを書き出してみましょう。
たとえば、「フェイクニュースについてどう思いますか?」と聞かれたと思って、知っていることを紙に書き出す。
実際に見たフェイク画像や動画、騙された体験などを思い出す。
それをまた、いくつかのまとまりにして、「フェイクニュース」という項目の下につなげていきます。
こうやって、知識は深掘りされていきます。
もうこれ以上は掘り下げられないと思えば。そこが自分の知識の限界です。
「調べきれていないポイント」かもしれません。
――『言語化だけじゃ伝わんない』より
この方法を続けると、自分だけの知識体系ができます。
本を一冊読む。記事を一本読む。ニュースを見る。
そのたびに地図へ枝を書き足していく。
すると、一年後にはまったく別物になります。
知識とは、暗記ではありません。つながりです。
地図を作る人ほど、説明もうまくなる
この方法は、知識を増やすためだけではありません。
説明の仕方まで変えてくれます。
相手に説明するときも、「まず全体図を見せよう」という発想になるからです。
いきなり細かな話を始めるのではなく、まず大分類を示す。そのあと枝へ降りていく。
まるで地図を広げてから目的地を説明するように話せるようになります。
だから聞き手も迷いません。
思考整理とは「自分だけの地図」を育てること
最後に本書はこう締めくくります。
やってみると意外と面倒くさいと思うはずです。
ただ、知っていることを整理することによって、記憶も定着しやすくなります。
みなさんもぜひ、関心のあることについて、地図づくりをやってみましょう。
地図をつくることによって、より深くものごとを知ることができると思います。
――『言語化だけじゃ伝わんない』より
この章で紹介されている方法は、一度やれば終わりではありません。
ニュースを見たら枝を一本足す。
本を読んだら分類を書き換える。
経験したら新しいラベルを増やす。
そうやって、自分だけの地図を育てていくのです。
頭のいい人とは、知識量が多い人ではありません。
頭の中に「地図」がある人です。
だから質問されても迷わない。
だから説明がわかりやすい。
だから新しい知識もすぐに整理できる。
思考整理とは、考えを無理やり言葉にする技術ではありません。
自分の頭の中を見える形にし、いつでも取り出せるようにすることです。
その積み重ねが、「考える力」と「伝える力」の両方を育ててくれるのです。
(本記事は、書籍『言語化だけじゃ伝わんない ―― 絵を描くように「考える・伝える」技術』を元にしたオリジナル記事です。)
1981年静岡県生まれ。制作会社にて、雑誌タイアップ広告の制作進行を務めたのち、フリーランスのライターを経験。国際情勢関連の英日翻訳をやりながら、2011年からイラストレーターの活動をスタート。現在は書籍・雑誌・広告など幅広く活動中。特に、ビジネス書や新書での挿絵や図解を担当することが多く、10年以上、活躍している。
これまで、装画・イラストを担当した書籍は200冊以上。『言語化だけじゃ伝わんない ―― 絵を描くように「考える・伝える」技術』(ダイヤモンド社)が初の単著となる。








