「認知症の家系じゃないから大丈夫」。そう思っている人は少なくないだろう。だが、認知症リスクを高めるのは遺伝だけではない。じつは普段の食事に含まれる「脂質」の摂りすぎも、脳に大きな影響を及ぼす可能性があるという。元オックスフォード大の医学研究者が明かす、その理由とは。(構成/ダイヤモンド社書籍編集局・石井一穂)
Photo: Adobe Stock
身近な食事に潜む「意外なリスク」
認知症というと、遺伝や家系の影響ばかりが注目されがちだ。
だが実際には、それだけではない。
元オックスフォード大の医学研究者であり、医師としても活躍する「糖と脳」の専門家・下村健寿氏は、著書の中で「身近な食事」に潜むもう一つのリスクについて警鐘を鳴らしている。
それが、「脂質の摂りすぎ」だ。
「太る」以外のリスクは少ないと思われがちだが、それは大きな誤解だという。
脂質が認知症リスクを高める理由
なぜ脂質が脳に悪影響を及ぼすのだろうか。
下村氏は、次のように説明している。
脂質は重要な栄養源であるため、運動などで消費されない脂質は血液中から内臓脂肪として蓄積されます。
この内臓脂肪が問題なのです。第3章で解説したように、内臓脂肪は皮下脂肪と違って、蓄積すると炎症物質を放出します。たとえ血糖値は上がらなくても、内臓脂肪が蓄積することで全身の炎症リスクが高まってしまうのです。炎症が発生するとアルツハイマー病発症のリスクが上がることは、すでに説明したとおりです。
――『糖毒脳――いつまでも「冴えた頭」でいるために知っておきたいこと』(下村健寿・著)より
炎症は全身で起こる。
当然、脳も例外ではない。
アルツハイマー病との関連が指摘される慢性的な炎症を引き起こし、認知症リスクを高める可能性があるという。
本当に怖いのは「脂肪肝」
さらに、脂質の摂りすぎにはもう一つの落とし穴がある。
それが「脂肪肝」だ。
内臓脂肪に溜まる以上の脂質が体の中に入り込んでしまうことがあります。すると行き場を失った脂質は肝臓に取り込まれ、蓄積し始めます。これが脂肪肝です。
肝臓は、本来脂肪が溜まるべきではない場所です(本来溜まる場所ではないところに溜まった脂肪のことを「異所性脂肪」といいます)。肝臓は、インスリンの力を使って血中への糖の出し入れを制御する重要な臓器でもあります。そこに脂肪が蓄積してしまうと、インスリンが十分に効果を発揮できなくなってしまいます。つまりインスリン抵抗性になってしまうのです。
――『糖毒脳――いつまでも「冴えた頭」でいるために知っておきたいこと』(下村健寿・著)より
インスリン抵抗性とは、体内で分泌されるインスリンの効き目が下がってしまう状態を示す。
そしてインスリンは、脳内の認知機能を守る役割をしていることがわかっている。
よって脂質もまた、摂りすぎれば内臓脂肪や脂肪肝を招き、炎症とインスリン抵抗性という二つの経路から認知症リスクを高める可能性があるということだ。
(本稿は、下村健寿著『糖毒脳――いつまでも「冴えた頭」でいるために知っておきたいこと』の内容をもとに作成した記事です)
福島県立医科大学卒。同大副理事、医学部病態制御薬理医学講座主任教授。現役内科医でもある基礎医学研究者。日本糖尿病学会東北支部学術評議員。日本内科学会認定内科医。医学博士。群馬県前橋市出身。2004年、日本で働いていた大学医学部から、英国オックスフォード大学への就職を試み、執念の就職活動を実らせて成功。オックスフォード大学正式研究員として、世界を代表する生理学者フランセス・アッシュクロフト教授の薫陶を8年間受けた。その間、新生児糖尿病治療法の発見という世界的快挙に貢献。新生児糖尿病の最重症型であるDEND症候群の脳神経症状治療有効例を報告した論文は米国神経学会誌「Neurology」よりEditorial論文に選出された。貢献を認められて2006年と2010年にオックスフォード大学メリット賞を2度受賞。日本帰国後は、新生児糖尿病に加えて肥満・2型糖尿病などの生活習慣病について、インスリン分泌や脳機能の観点から研究している。








