それは主義? はたまた事情??
「AかBか」という主義が分かれそうなトピックをあらためて考える、人気エッセイストの古賀及子さんによる書き下ろし新刊より抜粋・再構成して公開します。(構成/ダイヤモンド社書籍編集局)

暮らしの信じ方Photo: Adobe Stock

前回≫7/10公開、都心の狭い家が「最高」と言い切れるワケ【「持ち家か賃貸か」古賀及子さん書き下ろし(2)】

もっと過激に都心を求めたい

 もし私がなんらかのビジネスで大成功をおさめ、億万長者としての人生を歩みはじめたとする。それでも、郊外に巨大な豪邸を建立することはまずないだろう。

 より交通の利便性の高い都心の、より耐震性や防犯性の高い、より快適な、狭い家を選ぶ。狭い家で、東京に紛れる。

 富豪にならずとも、一緒に暮らしている子どもたちが独り立ちするなどして、もし今の家を引き払って引っ越すようなことがあれば、もっともっと過激に都心を求めたい。今の家は気に入って愛して暮らしているけれど、立地はいまひとつ生ぬるい。もっとばきばきの都心に身を置いてみたい。

仙人は霞を喰うというが、私は人流を喰って生きたい

 たまに打ち合わせまでの時間潰しで、大きなターミナル駅の周辺を歩くと、すこし裏に入ったところに普通の住宅街がぱっと現れて驚くことがある。

 暮らしているらしい人が、小さな子どもを乗せて自転車で走っていく。はっとして、こんなところにも淡々とした寝起きがあるのだと思う。

 六本木、麻布といったぎらぎらした感じもいいし、日本橋や銀座のような風情も捨てがたい。

 けれどやっぱりいちばん目指したいのは新宿だ。圧倒的なあの人の多さ。一日の駅全体の乗降客数は三百五十万人で世界一だそうだ。

 仙人は霞を喰うというが、私は人流を喰って生きたい。

道の向こうに、それはそれは小さな家がある

 ところで、ここ数年、近隣に暮らす友人が立て続けに海へ向けて引っ越していった。

 私の父母が選んだ、山のニュータウンへの転居とはまた意味合いの違う、海辺の注文住宅の選択という流れが、私の周りでは発生している。彼らはみんな、土地を買ってこだわってそれぞれのライフスタイルに沿った家を建てた。

 仕事はリモートワークを中心に、交通などに不自由することもなく楽しそうに暮らしている。遊びに行かせてもらえば、どの家もわくわくする、快適さがあふれるしつらえだ。

 わー!
 と、思う。

 狭い都心の家が大好きな私には考えつかない、こんな選択が、あるんだな! と感激する。素敵な内装の写真をたくさん撮らせてもらって、ひとしきり羨む。

 そうして心を温めてまた電車にごとごと揺られ、いつもの、それなりに都心の自宅の最寄り駅で降りる。商店街を抜け、大学生たちが集まっておしゃべりをしている公園を通り過ぎ、住宅街へ入る。

 道の向こうに、それはそれは小さな家がある。窓の中が明るんでいる。息子か娘のどちらかがもう、帰って家にいるんだろう。

 この、あまりにも小さい家が私の家だ。ぞくっとして興奮する。

(おわり)