このような調査をしたのは、「アルコールに弱いが酒が好きな人」たちは、普段から「小さな不快」を耐えている可能性が高いからです。生まれつき酒に弱ければ、「もう一杯飲みたい」と思っても我慢するしかありません。この違いが被験者の集中力に差をもたらすのではないかと、研究チームは考えたわけです。

 その後、全員に集中力テストを行ったところ、両グループには明確な差が現れました。定期的に酒の誘惑に耐えている人ほど目先の欲望に流されにくく、注意をそらさずタスクへ取り組む傾向が強かったのです。

小さな我慢を繰り返すことで
自己への信頼感が高まる

 この結果が示すのは、普段から小さな忍耐を積み重ねておけば、まったく違うシチュエーションでも集中力が出やすくなるという事実です。好きな酒を少しだけ耐えたり、慣れない動作でマウスを操作したりと、一見すると何の意味もなさそうな日常の小さな我慢が、あなたの集中力の土台を底上げしてくれます。

「小さな不快」で集中力が上がるのは、自己への信頼感を育む働きがあるからです。

 日常的に小さな我慢をくり返していると、少しずつ獣(編集部注/人間の本能的な欲求をコントロールする脳の「辺縁系」と呼ばれる部位を、本記事では「獣」と比喩で表現している)のなかに「自分には未来の結果を左右する力があるのだ」との感覚が生まれます。「誘惑に耐えた」という小さな成功体験のおかげで、人生のコントロール感覚が高まった状態です。

 この新たな感覚が「未来を左右するのは自分なのだ」との認識につながり、そのぶんだけ目の前の誘惑に耐えようとするモチベーションが上昇。結果的に集中力がアップしていきます。

 言い換えれば、「小さな不快」とは心の筋トレのようなものです。一時的なトレーニングの不快感を耐えないと筋肉が育たないように、精神にもある程度の負荷を与えなければ成長は見込めません。