『エンゼルバンク』 (c)三田紀房/コルク『エンゼルバンク』 (c)三田紀房/コルク

三田紀房作の転職マンガ『エンゼルバンク』を題材に、「転職デビル」の名で知られる転職アドバイザー・安斎響市氏が「転職のリアル」を解説する連載「『エンゼルバンク』で学ぶ転職のウソとホント」。第2回では「自分の価値を高める方法」について解説する。

転職市場で「自分の価値」を高める方法

 社会人として成功するための第一歩は、相場を知ることである――。

「もう教壇に立ちたくない」と転職を志す高校教師・井野真々子と、転職代理人・海老沢康生との対話が続きます。

 作中で語られている「相場」とは、労働市場における自分の適正価格、つまりは自分という人材の市場価値のことです。そして、大事なのはまず相場を知ること、そして相場を上げることだと言えます。

 しかし、一体どうやったら相場は上がるのか? 自分が現在持っている価値を、人材マーケットにおいて高める方法など現実的にあるのだろうか?

 考えあぐねた末に、井野は「今は転職をしない」という答えにたどり着きます。

 つまりは、現在の「進学校の英語教師」という領域で十分な経験と実績を積んだうえで、それを武器にして将来のキャリアを切り開いていくというのが彼女の意図です。

「本当に良い転職をしたいのであれば、今は転職しないのが正解」という判断は、やや逆説的ですが的を射ています。

 結局のところ、過去をすべて捨てて新しい人生を生きることなど不可能であり、現在のキャリアの延長線上にしか明るい未来は見えてこないからです。

転職はリセットボタンではなく「強くてニューゲーム」

 私が今まで転職相談に乗ってきた方々の中には、「とにかく今とは違う仕事がやりたい」「現在の職場は合っていないので別業界にキャリアチェンジしたい」「業界も職種も一気に変えたい」という希望を持つ人が少なくありませんでした。

 その度に、私はこう答えました。

「それだと、キャリアチェンジでもキャリアアップでもなく、単なるキャリアダウンになってしまうのでお勧めできません」と。

 今の仕事が嫌になってしまって、「ここではない、どこか」を探してしまう気持ちは分からないでもありません。私自身も、そういう考えで20代の頃にガラッと業界を変えて転職をしたことがあります。

 しかし、その転職は完全に失敗でした。異業界への転職や異職種への転職はたいていの場合、前向きなキャリアチェンジというより、自分の経歴に傷をつけるキャリアダウンになってしまいます。

 新卒の就職活動とは異なり、中途の転職活動では「即戦力」「経験者」採用が基本です。

 過去の経歴やすでに持っているスキルを生かして、今の仕事と転職後の仕事がきちんとつながる形で一貫性のある職歴を積んでいかなければ、なかなか長期的にプラスの結果にはなりません。

 安易に勢いだけで転職をすると、年収も市場価値もどんどん下がって、数年後に「あのとき会社を辞めなければ良かった……」と後悔することになります。

 ゲームのRPGに例えるなら、転職とは「全部リセットして最初からやり直し」ではなく、強くなった自分のまま2周目に突入する「強くてニューゲーム」* のような形になるのが理想です。

 今までに手に入れたスキル、業界内の人脈、特定領域の知識などをダイレクトに生かせる仕事を見つけて、入社初日から活躍できそうな職場に転職すると、キャリアはリセットされてゼロになることなく、プラスになって積み上がっていきます。

 まだ自分はそういう状態にはない……と思う場合は「今は転職をしない」という冷静な判断もアリです。

 あと数年は現職で経験を積んでから、あらためて転職を考えるのも一つの有力な選択肢だと言えるでしょう。

*一度クリアしたセーブデータの一部(レベルや所持アイテムなど)を引き継いだ状態で最初からゲームをやり直すことができるシステム

『エンゼルバンク』(c)三田紀房/コルク『エンゼルバンク』(c)三田紀房/コルク
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