『エンゼルバンク』 (c)三田紀房/コルク
三田紀房作の転職マンガ『エンゼルバンク』を題材に、「転職デビル」の名で知られる転職アドバイザー・安斎響市氏が「転職のリアル」を解説する連載「『エンゼルバンク』で学ぶ転職のウソとホント」。第4回では、転職経験者だけが知る「年収を左右するオイシイ現実」について解説する。「終身雇用はとっくにオワコン」と言われることも多い。だが、そのイメージとは少し異なる“意外な数字”が見えてきた。
終身雇用は、まだ崩壊していない
日本社会に伝統的に根付いてきた終身雇用・年功序列・新卒一括採用といった慣行は、もうすでに崩壊していると主張する人をよく見ます。しかし、本当にそうでしょうか?
作中、転職代理人の海老沢康生は「日本の終身雇用は崩壊どころか依然として強固に守られている」と語っています。
これはマンガの中に限った話ではありません。令和の時代でさえ、転職をタブー視する雰囲気は根強く残っています。
昔と比べたら、もちろん、転職は身近なものになってきているに違いありません。
それでも、「転職を何度も繰り返すのはダメな奴だ」「一つの会社で定年まで勤め上げるのが偉い」「公務員や大手企業など安定した職場で働き続けるのが一番良い」という風潮はいまだにあります。
近年、明らかに転職エージェントの街頭広告やCM動画が増えてきている背景には、転職市場がこれだけ隆盛であるにもかかわらず、頑張って広告を打ち続けなければ人材が集まって来ない……という歪な状況があるのではないでしょうか。
転職市場の総需要や人材紹介ビジネスは成長を続けているように見えます。しかし、その一方で、今でも日本の上場企業/大手企業の大多数は終身雇用を前提に新卒一括採用を続けています。
転職に対する抵抗感の薄い若い世代が毎年辞めていく状況はありつつも、40代~50代の人材が抜けていかず定年まで会社に居座るため、中途採用だけでは労働力を確保できず、新卒採用を辞められないという事情もありそうです。
「転職市場で勝負する人」だけが得をする
転職未経験の人は、なかなか現実的に「転職をしよう」と考えることができません。
20代のうちは一定割合の人が転職をして他社に移っていきますが、35歳まで転職未経験だった場合、ほとんどの人はそれ以降も転職を考えることはなく、同じ会社でずっと働き続けます。
これにはもちろん、企業側の中途採用のボリュームゾーンが20代~30代前半で、35歳を過ぎると年齢的に採用ハードルが上がるという事情も含まれます。
ただ、今の時代は「35歳転職限界説」なんて明確には存在しません。もちろん一部に例外的なケースはありますが、本来、30代後半以降であっても本気で転職しようと思えばできるレベルの人はたくさんいるはずです。
それでも、転職しようとしない、最初から考えもしない人が日本社会には数多くいます。
総務省統計局の就業構造基本調査(2022年)によると、有業者のうち現在の仕事が初職だと言う人は55%を超えています。転職が当たり前になったと言われますが、実際には多くの人が転職市場に足を踏み入れないままキャリアを築いています。「終身雇用・新卒一括採用」を前提とした働き方は今もなお日本社会に色濃く残っているのです。
だからこそ、チャンスなのだと私は思います。
日本の大企業で働く30代、40代の中に、優秀な人材はたくさんいます。転職しようと思えば、余裕で転職できるでしょう。
人によっては、経験やスキルを活かして転職することで年収が一気に100万円以上、もしかしたら200万円以上増える可能性もあります。
それでも、多くの人は転職市場に出てきません。狭い業界の、たった一つの会社の中に引きこもって、ずっとそこから出てきません。
日本の未来を考えると、これはけっして良い傾向ではありませんが、個人的には「なんて素晴らしい状況なんだ」と思わずにはいられません。
数々の手ごわい強敵たちが永遠に土俵に上がってこようとしないので、私たちは常に不戦勝で、簡単に転職市場で勝ち残ることができます。
転職を現実的な選択肢として前向きに検討できる人だけが、明らかに得をする状況になっています。
不謹慎ですが、「こっち側に来ないでいてくれて、本当にありがとうね」と私はいつも思っています。
『エンゼルバンク』(c)三田紀房/コルク
『エンゼルバンク』(c)三田紀房/コルク







