『エンゼルバンク』 (c)三田紀房/コルク
三田紀房作の転職マンガ『エンゼルバンク』を題材に、「転職デビル」の名で知られる転職アドバイザー・安斎響市氏が「転職のリアル」を解説する連載「『エンゼルバンク』で学ぶ転職のウソとホント」。第7回では「転職活動で、最優先にすべきこと」について解説する。
「我慢しなくていい仕事」は存在しない
転職を考えるとき、たいていの人は「給料が不満」「残業を減らしたい」「リモートで働きたい」など、何らかの課題を抱えています。直近で抱えているものだけでなく、「会社の将来性が不安」「将来的に遠方への転勤可能性がある」といった長期的な懸念によって転職を志す人もいるでしょう。
いずれにしても、現職の企業でこのまま働いていても解決できそうにない何かしらの課題を解決するために、その手段として転職を検討しているパターンが多いはずです。
物語の中で、弁護士として働く傍ら経営者としての顔も持つ桜木建二は、こう語ります。
「よく人は転職をリセットだと思ってる」「ところが、そんなことはありえない。人はどんな仕事でも、必ず何かしらの我慢をしなくてはならないんだ」
彼の主張には一理あります。転職をしたら給料が大幅に上がり、住宅手当も手厚く、残業も少なくて、ノルマも仕事のプレッシャーもなく、リモートワークもできて最高! というようなオイシイ話はなかなか現実にはないものです。
実際には、何かを得るために何かを捨てるのが世の常です。原則として、すべてを同時に手に入れることはできません。
たとえば、全国転勤のない仕事に移りたければ、給料を下げないといけなかったり、逆に、給料を大幅に上げたければ、残業が多くて大変な仕事を担当しないといけなかったり……という状況は多々あります。
ごく一部、すべてが同時に手に入る理想的な職場もないことはないのですが、そういう会社は入社難易度が極めて高いので、ほとんどの人にとっては現実的ではありません。相応にハイスペックな人材でないと、書類選考であっさり落とされてしまいます。
大事なのは、全体のバランス
桜木はさらに、こう続けています。
「ストレスを減らせるように調節できると、転職はうまくいく。すべてイチからやりなおせると期待したら、転職は必ず失敗する」
私の元に相談に来る求職者の方々の中にも、「大手企業で働きたい」「年収を大幅に上げたい」「残業も減らしたい」「リモートワークしたい」「キツい仕事はしたくない」と、何でもかんでも欲張ろうとしている人をよく見ます。気持ちはわかるのですが、当然ながら、そんなに都合よくすべての条件が揃う職場を見つけることはできません。
条件を増やしすぎて、優先順位をつけられない人は、結果的に1年後も2年後も転職先が見つからず、そのまま現職の職場で働き続けるケースになりがちです。これは、典型的な転職活動の失敗例です。
重要なのは、自分にとって、どの部分が一番大きなストレスになり、どの部分なら平気なのか、あるいは何とか我慢できるのか、という見極めです。転職は「何なら我慢できるか」を決める作業でもあるのです。
人はみな、何かを我慢しながら働いている……とはいえ、「頑張れば我慢できること」「どうしても我慢できないこと」「いくらやっても平気なこと」などは人それぞれ違っていて、個人の感じ方や価値観によって千差万別です。
たとえば、私自身は、個人的に気に入っている仕事内容であれば、体力的にハードな仕事でも、長時間集中が必要な作業であっても、それほどストレスを感じることがありません。一方で、自分に与えられたミッションが組織都合でコロコロ変わってしまったり、あまり意味があると思えない仕事にダラダラ付き合わされるのは非常に苦手です。
つまり、私にとっては「仕事内容」は絶対に譲れないものである一方、「長時間労働」や「体力仕事」などは実は耐えられないこともない、と言えます。
世の中には様々な職場があり、どうしても隣の芝生は青く見えるものです。しかし、どんな芝にも必ず虫はいます。重要なのは、羨ましそうに綺麗な芝を眺めることではなく、「どの芝の虫となら共存できそうか」を自分なりに見極めることだと言えます。
何なら我慢できて、何なら致命傷になりそうか、あまりピンと来ない場合は、とりあえず、転職先に求める条件をすべて書き出してリストアップしてください。そして、その中から「(1)最悪、転職自体が不可能になるくらいなら一応は妥協できること」、「(2)どうしても妥協できない、これだけは絶対に必須のこと」の二種類に仕分けをして、もう一度検討してみてください。
こういった優先順位を自分の中で整理できると、職場選び・仕事選びは一気に現実的なものになるでしょう。
『エンゼルバンク』(c)三田紀房/コルク
『エンゼルバンク』(c)三田紀房/コルク







