『エンゼルバンク』 (c)三田紀房/コルク
三田紀房作の転職マンガ『エンゼルバンク』を題材に、「転職デビル」の名で知られる転職アドバイザー・安斎響市氏が「転職のリアル」を解説する連載「『エンゼルバンク』で学ぶ転職のウソとホント」。第6回では「転職エージェントが無料なワケ」について解説する。
転職エージェントは、なぜ無料?
転職支援の仕事を始めたばかりの井野真々子は「お金は二の次でしょ、悩みを真剣に聞いて考える時には…」と言います。しかし、それを聞いた元同僚の桜木建二は「バカ言うな。金になるから真剣に聞けるんだ」と反論します。
転職エージェントの担当者一人ひとりが実際に何を考えて仕事をしているかは、人それぞれ異なるでしょう。ただ、相談者側の立場でいえば、「転職エージェントとはあくまでビジネスであり、常に自社の利益のために行動している」と考えておくのが無難です。
当たり前ですよね。あなたの友人でも、親でもパートナーでもない転職エージェントが、わざわざあなたの話を真剣に聞いてくれるのは「それが仕事だから」に他なりません。
そして、一般的な転職エージェントの場合、求職者側から利用料を取らない仕組みになっています。あなた自身が転職相談をしたり求人紹介を受ける際、エージェント側にお金を支払うことはありません。完全無料で利用できます。
よく考えてみると、「無料のサービス」っておかしいですよね。ボランティアじゃないんだから、無料で成立するはずがありません。
転職エージェントがあなたの話を親身になって聞いてくれるのは、あなたを企業に紹介して、入社につながった場合に多額の紹介報酬を受け取ることができるからです。
紹介手数料はエージェントや契約によって異なりますが、たいていのケースでは、入社時の年収金額に対して30~35%程度の報酬がエージェントに支払われます。年収600万円の内定が出れば、紹介手数料は約200万円に上るということです。一人の転職が決定するごとに200万円もの売り上げが発生すると考えると、とても大きなビジネスです。
厚生労働省の統計*によれば、人材紹介業の手数料収入の総額は2014年には3487億円でしたが、2024年には9835億円と、過去10年で3倍近くまで伸びています。近年、転職関連の巨大な街頭広告や有名タレントを起用したCM動画などをよく目にするのは、やはり「それだけ儲かっているから」だと言っていいでしょう。
転職エージェントは、あなたの味方ではない
井野の上司である転職代理人・海老沢康生は、「転職代理人…これはビジネスなんだ」と彼女に諭すように言います。奇しくも、桜木に数日前に言われたのと同じ言葉に、井野は少し驚いた顔をします。
言うまでもなく、転職エージェントとは慈善事業ではなくビジネスです。そして、重要なのは、エージェントに紹介手数料を支払うのは、求職者ではなく採用企業であるということです。
古今東西、ビジネスでは「お金を払う人」の意向が強く反映されやすいものです。エージェントは、「企業からお金を払ってもらうこと」を最終目的としてビジネスを運営しているため、担当者によっては「求職者の希望が通るかどうか」を妥協してでも何とか入社決定まで漕ぎつけようと画策する場合もあります。
あなたが転職しないことには報酬が発生しないため、あの手この手で、様々な会社の面接を強引に受けさせたり、「この機会を逃したら絶対に損です!」と煽って内定を承諾させようとしたりするケースもあるのです。
私自身も過去に散々、転職エージェントに振り回されてきました。ある年の8月に面談をしたら「この2カ月が絶好のチャンスです! 一番良いタイミングです!」と言われました。
さらにその後10月に話をした別のエージェントからは「年内が勝負です! 絶対にこの機会を逃さない方が良いです!」と言われ、「もはや一年中チャンスだらけじゃねぇか」と心の中でツッコミを入れた記憶があります。
もちろん、すべての転職エージェントがお金のことしか考えていないヤバい人、という話ではありません。しかし、大前提として彼らは「仕事でやっている」ものです。求職者の立場に立って親身に相談に乗ってくれる……なんて、最初から思わない方が良いでしょう。
転職エージェントは、あなたの味方ではありません。敵でもありません。
「取引先」のようなものだと考えて、適度な距離感を保ってコミュニケーションを取るのが一番です。
たとえば、「エージェント担当者の言葉に左右されずに自分の希望条件はハッキリと言い切る」「いくら煽られても急かされても、内定承諾は即決せずに慎重に時間をかけて考える」「一社だけではなく複数のエージェントを使って比較する」といった姿勢で利用するのが現実的です。
*厚生労働省「職業紹介事業の事業報告の集計結果について」(2014年度、2024年度〈速報値〉)
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/haken-shoukai/shoukaishukei.html
『エンゼルバンク』(c)三田紀房/コルク
『エンゼルバンク』(c)三田紀房/コルク







