『エンゼルバンク』(c)三田紀房/コルク
三田紀房作の転職マンガ『エンゼルバンク』を題材に、「転職デビル」の名で知られる転職アドバイザー・安斎響市氏が「転職のリアル」を解説する連載「『エンゼルバンク』で学ぶ転職のウソとホント」。第5回では「第二新卒のカラクリ」について解説する。
「第二新卒」の定義が曖昧な理由
元高校教師・井野真々子は、転職支援の仕事を始めた初日、相談者の山口彬宏との面談に臨みます。山口は食品関連の商社で営業職として働く20代の若者で、「もうこの仕事から学ぶことはない」「僕ぐらいの能力があればどこでもイケると思う」と自信満々な様子です。
転職活動をする際、「第二新卒」というワードをよく目にします。これは一般に、学校卒業後にいったん就職し、数年以内に転職活動をする20代の若手人材を指します。ただし、企業によっては、学校を卒業した後に就職せずブランクがある「既卒」まで含めて募集することもあります。
しかし、実は「第二新卒」には、法律などで定められた統一的な定義は存在しません。
何となく「経験者」未満の新卒同然の人材のことを指したフワッとした言葉です。誰も明確な定義をしないのには、ちゃんと理由があります。
法律上、企業の人材採用時に「30歳以下の方のみ応募可」 などの年齢制限を設けることは原則として禁止されています。例外が適用されるケースも一部ありますが、ただ単に「なるべく若い人を採用したい」という理屈だけでは年齢制限は認められません。
そのため、求人票では、「第二新卒歓迎」などの言葉によって、新卒入社からまだ数年に満たない若手向けの採用イメージを作っているケースがあると想像できます。
20代半ばの若手社会人の中には「第二新卒なら未経験でも転職できるだろう」「新卒の就活で失敗したから、第二新卒でリベンジしてやろう」と考える人も少なくありません。もっと極端な例で言うと、「若いうちに第二新卒の枠を使わなければもったいない」という発想をする人さえいます。
しかし、その思考では、なかなか転職は上手くはいきません。
マンガの中でも、井野は自信過剰な若手社会人・山口に対して「そんなことじゃどこにも通用しない」「もう少し大人になりましょう」と厳しい言葉で告げます。この叱咤激励に山口は腹を立ててしまいますが、時間を置いて冷静に考えた末、「井野さんの言うとおりだ」と改心する姿を見せます。
「第二新卒なら簡単に転職できる」というのは驕りです。未経験者には、未経験者なりの仕事しか与えられません。まずは自分の現在地を正しく認識するのが大事です。
「第二新卒」の落とし穴
「第二新卒」を謳って募集している求人は、たいていの場合、あまり良いチャンスだとは言えないのが現実です。
中には、新卒があまりにも次々と辞めていくので「第二新卒」枠で無理やり埋めようとしているブラック企業が募集しているケースや、「とにかく誰でもいいから若い人を採用したい」という体育会系のキツい仕事の募集だったというケースなど、その実態は様々です。
なんと言っても、新卒カードを使えるのは人生で一度きり。まるで、新卒のチャンスがもう一度あるかのように見える「第二新卒」は、新卒とはまったくの別物です。この点を把握しておかないと、痛い目に遭いかねません。
作中で、転職代理人・海老沢康生は、「第二新卒は企業側にとって便利な蛇口である」と述べています。つまり、企業側の都合で開け閉めして、流れる量を自由に調整できる「帳尻合わせ」のためのもの、という意味です。
「新卒では入れなかった、あの憧れの大手企業に『第二新卒』なら入社できるかも......」
「もう職場が嫌になったから辞めたい。『第二新卒』で入れそうなところに入ろう」
そんな希望は、いざ転職をしてみると、あっという間に打ち砕かれます。たしかに、若いうちの転職は比較的スムーズにできるのですが、怖いのは入社した後です。
私自身も転職アドバイザーとして相談を受ける中で、第二新卒で入社したものの、「新卒の穴埋め」としか見られず社内で不遇な扱いを受けたり、新卒社員のような丁寧な研修が用意されていないにもかかわらず同じレベルの結果を求められて苦しんだりしたという話をよく聞きます。
人それぞれ、色々な事情があるので、新卒入社してすぐの転職が必ずしもダメだとは言いません。ただし、まだ社会人として未熟で、経験もスキルもない人材でも喜んで雇う会社には、相応のウラがあると思っておいた方が無難です。
求人票に書いてある「第二新卒歓迎」とは、「新卒が逃げ出した席が空いていますよ」の言い換えかもしれません。
その採用枠は、事業拡大による新規募集なのか? 若手人材の欠員補充なのか? そういった背景まできちんと面接で確認したうえで、転職先は慎重に選びましょう。
『エンゼルバンク』(c)三田紀房/コルク
『エンゼルバンク』(c)三田紀房/コルク







