「70歳まで働きたい」と考える人は増えている。しかし、そのために筋トレやウォーキングに励んでも、それだけでは十分ではない。仕事を続けられるかどうかを左右するのは、体以上に「脳」の健康だからだ。元オックスフォード大の医学研究者で、「糖と脳」の専門家として知られる医師・下村健寿氏が語る、いつまでも働ける人の共通点とは?(構成/ダイヤモンド社・石井一穂)

「70歳まで働ける人」の共通点・ベスト1Photo: Adobe Stock

「70歳まで働く」ために欠かせないこと

「70歳まで働きたい」

 そう考える人は年々増えている。
 望んでいるというより、「そうせざるを得ない」状況だ。

 年金への不安。
 物価の上昇。
 孤独や孤立への恐怖。

 働き続けることは、もはや希望というよりも義務感として、多くの人に求められている。

 しかし、見落としていることがある。

 体が元気でも、脳が衰えれば仕事は続けられないという事実だ。

 元オックスフォード大の医学研究者であり、医師としても活躍する「糖と脳」の専門家・下村健寿氏は、著書『糖毒脳』で次のように指摘している。

少子高齢化が進む日本では、60代、70代になっても働き続けることが求められる時代が訪れています。
ジムに通って体を鍛えたり、健康本を読んで実践したりして体力の維持に努めている方も少なくありませんが、体が健康なだけでは仕事は続けられません。
全身を司る「脳」が正常に機能しなくなると、すべてが無意味になってしまいます。

――『糖毒脳 いつまでも「冴えた頭」でいるために知っておきたいこと』(下村健寿・著)より

 厚生労働省の推計では、2025年には認知症の人は約700万人、高齢者の5人に1人に達するとされている。

 70歳まで働くためには、筋力だけでなく「脳」を守ることが欠かせないのだ。

脳を蝕む「身近な魔の手」とは?

 長く働き続けるために、脳を守る。

 そのために気をつけたいポイントとして、下村氏は意外な点を挙げている。

 日常の食事に多く含まれる、「糖」だ。

じつは私たちの身近なところに、脳を蝕む「魔の手」が潜んでいます。
それは、日々の食生活に潜む「糖」です。
過剰な糖の摂取を長年積み重ねた結果として発症するのが「糖尿病」ですが、じつは糖尿病の人は、アルツハイマー病になりやすいのです。
米国ミネソタ州南東部の地域住民を対象とした大規模研究では、アルツハイマー病患者の81%が2型糖尿病、または糖尿病予備群であったと報告されています。

――『糖毒脳 いつまでも「冴えた頭」でいるために知っておきたいこと』(下村健寿・著)より

 これは、過剰な「糖」が糖尿病もアルツハイマー病も引き起こしているという事実を示している。

 実際、2つの疾患は「原因が同じ病気」と言っても過言ではない。

 アルツハイマー病を「3型糖尿病」と考える専門家は世界に数多く存在するそうだ。

 過剰な糖によって脳が毒された状態を、下村氏は「糖毒脳」と呼び、この状態が進行すると、脳の認知機能が崩壊していくと指摘している。

「健康診断では正常」でも安心できないワケ

「血糖値は正常だから、自分は大丈夫」

 そう思った人も少なくないだろう。

 しかし、下村氏はそこに落とし穴があるという。

「自分は糖尿病予備軍じゃないから大丈夫」と思った人もいるかもしれません。
しかし、ここに大きな落とし穴があります。
たとえ健康診断や検診で「血糖値が正常」と診断されても、それで安心とはかぎらないのです。

――『糖毒脳 いつまでも「冴えた頭」でいるために知っておきたいこと』(下村健寿・著)より

 なぜなら、たとえ診断の結果に異常がなくても、それが「体が無理をして正常に見せかけている」場合があるからだという。

 体が異常な代謝を行うことで、なんとか血糖値のバランスを保っている状態だ。

 この場合、近い将来、バランスがあっという間に崩れ、アルツハイマー病を発症する可能性が高い。

働き続けられる人は「糖とうまく付き合っている」

 では、どうすればいいのか。

 答えは、糖を極端に断つことではない。

 下村氏は、その考え方も否定している。

私は糖を必ずしも悪いものだとは考えていません。医師として患者さんに糖質制限をすすめたことも一度もありません。
(中略)糖は私たちにとって絶対に必要な栄養素であり、必ず摂取しなければいけません。
ですから大事なのは、糖を「制限」することではなく、「制御」してうまく使いこなすことです。

――『糖毒脳 いつまでも「冴えた頭」でいるために知っておきたいこと』(下村健寿・著)より

 さらに下村氏は、認知症は何十年もかけて進行する病気だからこそ、無理なく続けられる生活習慣が重要だと強調する。

 70歳まで働き続けられる人は、特別な才能がある人ではない。

 日々の糖との付き合い方を見直し、脳の健康を守る習慣を長く続けている人なのである。

(本稿は、下村健寿著『糖毒脳――いつまでも「冴えた頭」でいるために知っておきたいこと』の内容をもとに作成した記事です)

下村健寿(しもむら・けんじゅ)
福島県立医科大学卒。同大副理事、医学部病態制御薬理医学講座主任教授。現役内科医でもある基礎医学研究者。日本糖尿病学会東北支部学術評議員。日本内科学会認定内科医。医学博士。群馬県前橋市出身。2004年、日本で働いていた大学医学部から、英国オックスフォード大学への就職を試み、執念の就職活動を実らせて成功。オックスフォード大学正式研究員として、世界を代表する生理学者フランセス・アッシュクロフト教授の薫陶を8年間受けた。その間、新生児糖尿病治療法の発見という世界的快挙に貢献。新生児糖尿病の最重症型であるDEND症候群の脳神経症状治療有効例を報告した論文は米国神経学会誌「Neurology」よりEditorial論文に選出された。貢献を認められて2006年と2010年にオックスフォード大学メリット賞を2度受賞。日本帰国後は、新生児糖尿病に加えて肥満・2型糖尿病などの生活習慣病について、インスリン分泌や脳機能の観点から研究している。