『エンゼルバンク』 (c)三田紀房/コルク
三田紀房作の転職マンガ『エンゼルバンク』を題材に、「転職デビル」の名で知られる転職アドバイザー・安斎響市氏が「転職のリアル」を解説する連載「『エンゼルバンク』で学ぶ転職のウソとホント」。第14回では、転職活動を有利に進めるためのエージェントとの付き合い方について解説する。
転職エージェントは、複数登録が基本
新たな相談者・北川久美子のシビアな雰囲気に、新人の転職代理人・井野真々子はやや緊張した様子です。
「私に関しては事務的な処理だけお願いします。必要なことはその都度私が判断します。ですから余計なアドバイスはしなくて結構……」
「さしあたって商社系の求人を用意して下さい。ただし一部上場以外はすべてパス。今日はそれだけお伝えしておきます。では、これで」
自分の都合だけ言って足早に去っていった北川の態度に困惑した井野は、上司の海老沢康生に一連の経緯を話します。
彼は、「アハハハ…… 最高……」と茶化すように井野をなだめます。
「恐らく…… 北川さんはいろんな代理人と会ってる。登録してるのはウチの会社だけじゃない。他にも数社掛け持ちしてる。井野さんは北川さんから二股三股かけられてるってこと」
作中の転職希望者・北川の言動はやや失礼ですが、行動としては特に珍しいものではありません。転職エージェントと付き合うときは、複数に同時登録して比較するのが定石です。
当然ながら、担当者には能力や経験値のバラツキがありますし、その人との個人的な相性もあります。井野のように異業界から移ってきたばかりの新人エージェントや、「転職経験がない転職エージェント」というまるでお笑いコントみたいな担当者をアサインされることも多々あります。
そもそも転職活動に関する情報はほとんどがブラックボックスで、エージェント側と求職者側では「情報の非対称性」が深刻なので、いくつかのエージェントと付き合っておかないと、あっという間に変な方向に誘導されてしまいます。
複数のエージェントと同時に付き合うのは、自己防衛のための正当な手段です。
自分の「市場価値」を知らない人ほど、態度が悪い
それから、北川の職務経歴詳細を見た海老沢は、突然こう呟きます。
「ん? あ~~~……そうかあ。北川さん、残念ながら……転職ムリ」
「というのも、北川さん、総合職じゃなくて一般職だからなんだ」
北川は32歳。大手商社に入社して10年目だが、もともと一般職での採用だった。優秀な人材かもしれないが、社会ではまだ一般職と総合職の線引きが厳然と残っている。一般職から総合職への転職はかなり難しい、というのが海老沢の見立てでした。
「一般職」「総合職」といった職種の境目がほぼなくなりつつある今、一般事務などの募集は求職者に対して極めて少なく競争が激しい。かと言って、総合職として雇ってもらえるのかというと、それも微妙……。残念ながら、北川は作中でいう「相場の低い」人材だったのです。
ここで注目したいのは、北川の転職エージェントに対する高圧的な態度です。
このマンガがとても秀逸なのは、フィクション作品でありながら「実際、こういう人いるよね……」と苦笑してしまうリアルさを醸し出しているところです。
これまで、会社員時代の採用活動や、現在行なっている転職支援の活動を振り返ってみても、市場価値が低く「この人は転職厳しいだろうな……」という人に限って、なぜか態度だけは立派だったりすることが、私の経験上はあります。
「転職エージェントと面談をする気はないが、どんな求人を持っているかだけ見てみたい」
「面接対策などは必要ない。企業との橋渡しだけしてもらえれば、それで構わない」
そんな風に言う人も意外と多いです。
インターネット上の「転職エージェントは信用するな」という匿名の情報を鵜呑みにして、最初からエージェントを不審な目で見ていたり、品定めするような態度だったり、というケースです。
ただ、やはりこういう言動を平気でする人は、なかなか転職活動がうまくいかず、苦戦してしまいます。
「エージェントに気を遣え」ということではなく、利害関係者と良い関係を作れるコミュニケーション能力がない人には、エージェントも企業も冷たい、という意味です。
尖った態度で相手を突き刺しても、すべて自分に返って来て損をするだけです。転職エージェントとは、仕事上の大事な関係者に接するのと同様に、丁寧に礼儀を持ってコミュニケーションを取るのが良いでしょう。
『エンゼルバンク』(c)三田紀房/コルク
『エンゼルバンク』(c)三田紀房/コルク







