認知症を予防するために、何を食べればいいのだろうか。健康食品やサプリメントなど、さまざまな情報があふれているが、本当に効果が期待できるものは意外と多くない。元オックスフォード大の医学研究者で、「糖と脳」の専門家として知られる医師・下村健寿氏は、日本人にとって身近な食べ物に、その鍵が隠されていると言う。(構成/ダイヤモンド社・石井一穂)
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認知症対策で見落とされている「栄養素」
認知症を遠ざけるには、何を食べるべきなのだろうか。
健康食品を試す。
サプリメントを飲む。
「脳にいい」と話題の食材を積極的に取り入れる。
そんな工夫をしている人も少なくない。
しかし、残念ながら「これさえ食べれば認知症を防げる」という万能な食品は存在しない。
一方で、元オックスフォード大の医学研究者であり、医師としても活躍する下村健寿氏は、著書の中で「積極的に摂る価値がある栄養素」が一つだけあると述べている。
1つだけ、確実におすすめできるものがあります。日本人に本当に不足している栄養素である「食物繊維」を含む食べ物です。
――『糖毒脳 いつまでも「冴えた頭」でいるために知っておきたいこと』(下村健寿・著)より
日本人は戦後間もない1950年代までは十分な量の食物繊維を摂取していたが、現代では摂取量が顕著に低下していると、下村氏は指摘する。
厚生労働省が推奨する食物繊維の摂取量は1日あたり20グラム程度だが、日本人の平均的な1日の摂取量は15~18グラム前後にすぎないという。
つまり、身近でありながら不足しがちなこの栄養素が、認知症予防の鍵を握る可能性があるというわけだ。
なぜ食物繊維は脳に良いのか
では、なぜ食物繊維が認知症対策につながるのだろうか。
下村氏によれば、海外の疫学研究では、食物繊維の摂取量が少ない人ほどアルツハイマー病を含む認知症を発症しやすいことが報告されているという。
その仕組みについては研究が続いているものの、有力なメカニズムの一つとして、腸内環境との関係が考えられている。
下村氏は次のように説明する。
食物繊維が腸内細菌の力によって発酵されると、酪酸などの短鎖脂肪酸が生成されます。この短鎖脂肪酸は脳の中に入り込むことができ、記憶を司る海馬において神経細胞の新生を促すことがわかっています。
――『糖毒脳 いつまでも「冴えた頭」でいるために知っておきたいこと』(下村健寿・著)より
つまり食物繊維は、認知症で失われる場所に新しい神経細胞を生み出してくれる可能性があるのだ。
リスク低下が確認された「食物繊維」の種類
さらに下村氏は、食物繊維なら何でも同じではないと指摘する。
とくに注目しているのが、水溶性食物繊維だ。
その根拠として、次の研究を紹介している。
筑波大学が3000人以上を対象に20年以上をかけて行った調査によると、食物繊維のなかでもワカメや昆布などの海藻類や、大豆、こんにゃくなどに多く含まれている水溶性食物繊維を多く食べていた人は、そうでない人と比べて認知症になるリスクが4分の3まで低下していました。
――『糖毒脳 いつまでも「冴えた頭」でいるために知っておきたいこと』(下村健寿・著)より
認知症リスクがおよそ25%低下したという結果は、日々の食生活を考えるうえで見逃せない。
しかも、ワカメや昆布、大豆、こんにゃくなどは、日本の食卓では決して珍しい食材ではない。
高価な健康食品に頼る前に、毎日の食事で水溶性食物繊維を意識して取り入れることが、認知症予防への現実的な第一歩になるだろう。
(本稿は、下村健寿著『糖毒脳――いつまでも「冴えた頭」でいるために知っておきたいこと』の内容をもとに作成した記事です)
福島県立医科大学卒。同大副理事、医学部病態制御薬理医学講座主任教授。現役内科医でもある基礎医学研究者。日本糖尿病学会東北支部学術評議員。日本内科学会認定内科医。医学博士。群馬県前橋市出身。2004年、日本で働いていた大学医学部から、英国オックスフォード大学への就職を試み、執念の就職活動を実らせて成功。オックスフォード大学正式研究員として、世界を代表する生理学者フランセス・アッシュクロフト教授の薫陶を8年間受けた。その間、新生児糖尿病治療法の発見という世界的快挙に貢献。新生児糖尿病の最重症型であるDEND症候群の脳神経症状治療有効例を報告した論文は米国神経学会誌「Neurology」よりEditorial論文に選出された。貢献を認められて2006年と2010年にオックスフォード大学メリット賞を2度受賞。日本帰国後は、新生児糖尿病に加えて肥満・2型糖尿病などの生活習慣病について、インスリン分泌や脳機能の観点から研究している。








