レクサスの次世代バッテリーEV「LF-ZC」のコンセプトカー(ジャパンモビリティショー2023) Photo:AFP=時事
トヨタが2027年発売予定だった次世代EV「LF-ZC」の開発を突如中止しました。EV需要の鈍化や採算性を踏まえた「正しい経営判断」と見られていますが、実はこの決断の裏には数百億円の損失よりも恐ろしい〈代償〉が潜んでいます。安価な中国車との勝負から逃げ、高級車市場へと舵を切る日本メーカーを待ち受ける「イノベーションのジレンマ」の罠とは?中国メーカーに世界覇権を奪われないための“絶対条件”に迫ります。(百年コンサルティングチーフエコノミスト 鈴木貴博)
数百億円の損失より重い
トヨタ「開発中止」の代償
トヨタが2027年に発売予定だった次世代EVのLF-ZCの開発を中止することがわかりました(日本経済新聞 7月2日)。メディアではテスラのモデル3のライバルになると位置づけられていたレクサスのセダンで、車両寸法はほぼ同じ一方で、次世代電池の搭載で航続距離は約1000kmとモデル3を圧倒する計画でした。
2023年のジャパンモビリティショーで公開され、当初は2026年発売予定とされていましたが、昨年、発売を2027年半ばに見直し、今回量産開発中止が決定したのです。すでに協力会社含めて生産設備投資が始まっているこのタイミングでの中止はトヨタの歴史上前例がなかったのではと言われています。
中止による損失は数百億円規模で、部品メーカーの中には100億円規模の損失が出る企業もあるといいます。なぜトヨタは中止に踏み切ったのでしょうか?
報道を総合すると理由は3つで、世界的にEVの需要が想定よりも鈍化したこと、高級セダン市場が縮小傾向になっていること、そして想定よりも価格が高くなりそうだということのようです。
LF-ZCの開発を中止したといっても、LF-ZCのために研究開発されてきた次世代電池、ギガキャスト(大型の車体フレームを一体成形する技術)、基盤となるソフトウェアのアリーン(トヨタが独自開発した車載ソフトウェアプラットフォーム)などの成果は、そのまま次の開発に引き継がれます。
この先、多額の量産投資をしてまで新型の高級EVセダンを投入する優先順位が下がった中で、北米向けのSUVなど次世代EVとして利益率の高い車種の開発へと人員や資金を再配分するというのは、CFO出身の近社長の正しい経営判断と思われます。
ただしです、戦略の視点でみると開発中止の影響は、目に見える数百億円の損失よりも大きいものがあります。その点を整理したいと思います。







