日本の「正解」が命取りに
中国車に負ける恐怖の法則
今、世界の自動車業界では経営戦略理論における「イノベーションのジレンマ」が世界市場を支配しています。
自動車市場におけるイノベーションのジレンマとは「価格の安い中国車が下位市場を席捲しはじめるときに、欧州、米国、日本の自動車メーカーがより上位の市場にターゲットをシフトすることで、長期的に市場地位を失っていく現象」のことです。
実際、今年5月、欧州市場で中国車のシェアがはじめて日本車を上回りました。欧州でEV補助金が縮小し、中国製EVに45%の追加関税が課せられているのに、その現象が起きています。世界市場ではBYDの輸出比率は4割を超え、2026年の中国車の世界での輸出台数は1000万台と日本の2.5倍に達すると予測されています。
これは安くてそこそこ品質がいい中国車が、欧州だけでなく広く世界中で市民権を得始めていることを示しています。
イノベーションのジレンマに直面するとトヨタに限らず既存メーカーは品質にこだわり、品質を重視する上位市場に注力するようになります。中流層以上の顧客は品質を重視しますから当面、上位マーケットは守られます。
しかし都合が悪いことに、下位市場で中国車がシェアを伸ばすことで2つの変化が起きます。
ひとつは中国車のコストがさらに下がること、そしてもうひとつは品質が一段階上がることです。
コストも品質も累積生産量の関数になっていることが知られていて、数量を伸ばした企業はその恩恵をうけます。かつて1970年代から80年代初頭にかけて「安いだけだ」と見下されていた日本車が、10年後には欧米市場を席捲する存在になれたのはこのメカニズムです。
今、自動車業界では日本企業と中国企業は異なる戦略で戦っています。
日本メーカーは利益が出る車を作ることを基本戦略として、採算性を重視し、売れる見込みを慎重に判断して自動車を市場に投入します。今回のLF-ZCの開発中止もこの基本戦略から判断されたものです。
一方で、中国メーカーは市場シェアをとることを優先します。将来の覇権を重視したうえで多数の車種を市場に投入します。
問題はこのように両者が正しい戦略を推進していくことで、日本メーカーはこの先5年の利益を享受できる一方で、中国メーカーは5年後の世界市場を制覇できるようになることです。これがイノベーションのジレンマという戦略理論の根幹です。
イノベーションのジレンマという戦略理論自体は、過去20年間でさまざまな研究がなされ、一定の対策がわかっています。







