安心感を演じ切る
トップ営業マンの技術

 お客さまとの打ち合わせのときには大きなマイバッグを持ってテーブルにつく。住宅営業マンのイメージとしてペラペラ流暢に話す感じを想像する人も多いと思うが、早口でテンポよく話す営業マンは、まだまだ三流詐欺師の域であり、S氏のようなプロはゆっくり、まるで「地をはうような」話し方で、お客さまとのコミュニケーションを取る。

 そして致命傷にならない程度に、都合の悪いことほど先にお客さまに伝えることで、「いいことも悪いことも、すべて正直にお話しする」スタンスを示す。プロの詐欺師ほど辻褄の合わない話を極端に嫌うため、提案はすべてに実例、資料、数字を使い、根拠や透明性を重視した打ち合わせを徹底している。

 ただ実例に関していえば、じつはほとんどつくり話が多いのだが、シチュエーションの細かさと、何より感情を揺さぶる話し方で相手を魅了するのが特徴。

 もちろん、こんなものは教えられてもできるもんじゃなく、なんともたとえが難しいが、言葉ではなく「魂」で話している領域ともいえる。しかも、お客さまのタイプに応じて変幻自在の多重人格で、まるで「憑依」の世界……。

 そんな接客なものだからか、本人いわく、1回の打ち合わせがものすごく「疲れる」らしい。このクラスになると、同僚としては、もう営業スキルとかのレベルの話ではなく、人間力の格の違いを見せつけられている感じもする。

 これも、とてもじゃないが、若い営業マンに真似のできるものではないし、教えられてできるものでもない。このような心理的な詐欺で契約を取る力も営業マンの「営業力」というわけだが、別の言い方をすれば、「パフォーマンス詐欺師」ともいえるだろう。

 S氏の場合は特殊なケースではあるが、成績のいい営業マンというのは、少なからずこの手の要素は持ち合わせていることが多い。