【セーラム・タウンシップ(ペンシルベニア州)】2年前、土地開発業者たちがデービッド・キリティ夫妻の農場に車で乗り付けたとき、夫妻は彼らを自宅に招き入れ、テーブルでシカのボロニアソーセージを切り分けてもてなした。

 業者たちは、人口4000人のこの農村に夫妻が持つ約36万平方メートルの農場には2000万ドル(約32億円)以上の価値があるかもしれないと告げた。夫妻にとって、その途方もない値段は全くのでたらめのように聞こえた。

 夫妻は、一家が豚を育ててきたこの農場が、その何分の一かの値段でも売れれば御の字だと思っていた。ペンシルベニア州の他の地域とは異なり、地中に石油も天然ガスも埋まっていなかった。

 しかし開発業者たちは農業や燃料には興味がなかった。夫妻の土地はデータセンターの建設予定地として、2200万ドル以上の価値があったのだ。

メリリー・キリティさんとデービッド・キリティさんメリリー・キリティさんとデービッド・キリティさん

 全米各地の町や地区がデータセンターを拒否してきた。住民たちは騒々しい抗議活動を展開し、数十億ドル規模の巨大プロジェクトに反対する運動が広がっている。その一方で、ごく一部の人々が静かにデータセンターの受け入れに同意し、富を築いている。

 キリティ夫妻は、ペンシルベニア州北東部にある目立たない町、セーラム・タウンシップに住む96世帯のうちの1組だ。住民たちは計約7平方キロメートルの土地を投資会社ブラックストーン傘下のデータセンター開発業者QTSに売却した。1エーカー(約4047平方メートル)当たり平均33万ドルで売却し、平均550万ドルを得た。売却総額は5億8600万ドルに上った。

 これらの家族は、米国で急速に増えつつある新たな富裕層の仲間入りをした。彼らが財産を築いているのは、現在の米国で最も価値ある商品の一つ、つまり人工知能(AI)向けデータセンターの建設に使える土地を所有しているためだ。

 土地の売り手の中にはつましい生活を送っていた人もいた。大型のトレーラーハウスに住んでいた人も数人いた。成功した中小企業経営者や専門職の人もいた。勤務先の銀行から金を横領した者もいれば、ハードロックのドラマーもいた。住民たちは土地売却の大きな成果を祝うため、「一生に一度の取引」と書かれたTシャツを作った。