こいつ、異常だ…エリート社員が口走った「耳を疑う言葉」【マンガ】『マネーの拳』(c)三田紀房/コルク

三田紀房の起業マンガ『マネーの拳』を題材に、ダイヤモンド・オンライン編集委員の岩本有平が起業や経営を解説する連載「マネーの拳で学ぶ起業経営リアル塾」。第73回では、株式の大量保有と株価の関係について解説する。

手に入れたらあとはゴミ箱にポイ

 外資系ファンド・サンデーキャピタルに出資し、新興アパレルメーカー・T-BOXの買収を企む大手商社・一ツ橋商事の井川泰子。サンデーキャピタル日本支社の福沢ウイリアム太郎はそんな井川のもとを訪れ、今後の戦略を説明する。

 すでにT-BOXの株式の5.1%を取得して大量保有報告書を提出しているサンデーキャピタルだが、今後もT-BOX株を買い増す計画だという。ただし、株価に強い上昇圧力をかけないよう、徐々に買い増しをし、最終的に特別決議(会社の合併や定款変更などの重要事項に関する決議)の拒否権を獲得できる33.4%以上の取得を狙う。

 福沢は井川にそう伝えた上で「T-BOXを吸収後、どのような計画をお持ちですか?」と尋ねる(なお、2026年5月以降、30%を超える株式取得にはTOB〈株式公開買い付け〉が必要となっている。直近制定されたルールであるため、漫画は市場で33.4%まで取得するストーリーになっている)。

 その質問に井川は「手に入れたらあとはゴミ箱にポイよ」と冷淡に語る。井川からすれば、ただただT-BOX・代表の花岡拳憎しで進めるこの計画には、それ以上の意味はない。だからこそ、遊んで飽きたらメチャクチャに壊しても構わないと考えているのだ。

 一方のT-BOXも、サンデーキャピタルの背後に、以前T-BOXに対して敵対的TOBを計画していた井川たちがいると確信する。

 新型ファスナーの開発に成功して株価が高値で安定している中で大量に株式を買っているサンデーキャピタルの動きが、あまりにも強引だったからだ。花岡は井川の異常な執着心を改めて認識し、覚悟を決めてこう言うのだった。

「もはや、あいつ…異常だ。おかしいとしか思えない」

「邪魔だ…目障り…この際…消す」

大量に株を買うと、なぜ株価は上がるのか

漫画マネーの拳 9巻P27『マネーの拳』(c)三田紀房/コルク

 サンデーキャピタルの福沢は、T-BOXの株式を少しずつ買い増すと井川に説明している。株が欲しいなら一気に買えばよさそうなものだが、それでは買収コストを自ら引き上げかねないからだ。

 株式市場というのは、簡単に言えば「ある価格で買いたい人」と「ある価格で売りたい人」の注文が数多く並んでいる場所だ。

 なので、「1000円で売りたい」という人の株をすべて買い切った上でさらに株を買うには、1010円、1020円と、より高い価格で売り出している株式を買わなければならない。

 そのため、一度に大量の株を買おうとする、つまり「買い注文」を出すほど、安い価格の売り注文を次々と消化して、株価を押し上げやすくなる。

 それだけではない。大口の「買い」が続けば、ほかの投資家たちも「誰かが株を集めている」「買収が始まるのではないか」と推測してさらに株を買う動きが加速する。結果として株価はさらに上昇し、想定より高い価格で株式を集めざるを得なくなるというわけだ。

 また、上場会社の株式を5%超保有した場合は大量保有報告書の提出が必要となり、その後も保有割合が1%以上増減すれば変更報告書が必要になる。

 福沢の説明は、T-BOX株の買い集めの事実こそ市場に知られつつも、極力刺激しないように慎重に動いているということの証左だ。株式市場では「自らの買い注文」自体が、株式取得の最大の敵にもなり得るというワケだ。

 サンデーキャピタルの動きが新聞で報じられ、花岡は牧から、数日内に電撃的なTOB発表が行われるだろうとの連絡を受ける。T-BOX社内で動揺が広がる中、福沢はさらなる追い打ちをかけるのだった。

漫画マネーの拳 9巻P28『マネーの拳』(c)三田紀房/コルク
漫画マネーの拳 9巻P29『マネーの拳』(c)三田紀房/コルク