しかし、本来、調査の目的が異なるのであれば、それらを個別に実施すべきであろう。学力調査を行いたい教育行政(文部科学省や教育委員会)は、学校の授業や指導法を改善させる目的でテスト形式の調査を行いながら、「学力低下論争」に代表される「この国の児童生徒における学力」を検討するという目的も果たさなければならない立場にあり、調査設計においてもこれらの意識が混在しているという指摘がなされている(『全国学力テストはなぜ失敗したのか 学力調査を科学する』岩波書店 川口俊明(2020))。
経年変化分析調査が
問題を公表しない理由
目的にそった調査(テスト)を実施するために前者を後者から切り離して、学力をモニターする目的のテストを別の学力調査の形で実施するという考えが重要である。費用や手間はかかるかもしれないが、同じように見える調査を2つ、並列させて走らせるということである。
実は、学力の年度間比較を目的として、2016年、2021年と2024年に「経年変化分析調査」と呼ばれるもう1つの「全国学力・学習状況調査」が行われてきている。
この3回の学力調査は、小学6年生と中学3年生が解答する点は毎年行われる調査と同じであるが、日本の公立小中学校に通う児童生徒から一定規模のサンプルを抽出して、共通問題を含む形で複数種類の問題冊子を用いて調査問題を実施している。そして、項目反応理論を用いてスコアの意味が年度間で比較可能となるようにしている。すなわち、2016年の平均を基準にして、2021年、2024年の平均点を比較できるのである。
一方で、毎年行われているほうの全国学力・学習状況調査ではそのような工夫がなされていないため、毎年調査を行っていながら、そのスコアの意味は直接比較可能ではない。2023年の平均点と2024年の平均点は、同じ尺度上に乗っていないのである。それゆえ、本調査の平均点からは学力の経年変化をとらえることはできない。
経年変化分析調査の結果によると、小学6年向けの「国語」と「算数」、中学3年向けの「国語」について、平均スコアが2024年調査において2016年調査から低下傾向にあることが示された(小6国語:505.8→489.9、小6算数:502.0→486.3、中3国語:508.6→499.0。数値は国立教育政策研究所2025から引用)。
『テストと学力 何を測るのか、どう測るのか』(光永悠彦、岩波書店)
しかしこれらの低下が顕著と言えるかについては、解釈の余地が残されている。
経年変化分析調査は毎年行われる調査と異なり、問題は「非公表」である(出題の趣旨と一部の問題例のみ公表されている)。解答の正誤を調査対象者の児童生徒に返すことも、学校の先生が授業の中で問題文を活用して授業することもない。
この調査方法に違和感を覚える読者も多いかもしれない。「問題を持ち帰れないなんて、ひどいじゃないか」と考える子どもや保護者もおられよう。しかしこの仕組みはあくまで「現在の児童生徒の学力水準を検討するための資料」とするための調査である。この調査に対する「対策」を学校で行うことは、調査結果をゆがめ、調査の意義を損ねる行為である。







