日本人が最も好む投資信託、「eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー)<通称オルカン>」。ブルーモ証券CEOの中村仁氏は、日本人が「AIバブル後」という次の時代の投資戦略を考えるためには、「オルカン」の誕生の経緯と実態を知っておくべきと主張します。その詳細を解説する記事の後編です。

オルカンのAI相場の関係2Photo: Adobe Stock

2023年のエヌビディア決算でGPU需要の爆発が判明し、空前のAI相場が始まった

 ChatGPTを皮切りにした生成AIブームは、やがて株式市場で本格的な「AI相場」を巻き起こした。その決定的な転機となったのが、2023年5月に発表された米半導体企業エヌビディア(NVIDIA)の驚異的な決算である。エヌビディアはもともと画像処理用の半導体(GPU)大手だが、ChatGPTのような大型AIを動かすには大量のGPUが必要となるため、生成AIブームに伴うGPU需要の高まりに投資家の注目が集まり、またたく間にAIモデルの学習・推論に不可欠なインフラを提供する企業となった。

 そして迎えた2023年春の決算発表で、エヌビディアは市場予想をはるかに上回る業績見通しを示した。2023年5月、エヌビディアは「次四半期の売上高は従来予想を50​%以上も上回る見通し(約110億ドル、従来予想は約71億ドル)」と発表し、市場はこれをAI需要の爆発的拡大と受け止めた。実際、クラウド向けの最新GPUは供給が追いつかないほどの完売状態で、同社CEOのジェンスン・フアンも「生成AIへの需要は桁違いだ」と語ったほどである。

 この驚異的なガイダンスにマーケットは熱狂し、発表翌日の株価は時間外取引で28​%もの急騰となった。1日の時価総額増加額は約2000億ドル(約27兆円)にも達し、単日として史上例のない規模の株価上昇であった。

 このエヌビディア決算を契機に、株式市場では空前のAI相場が本格的に幕を開けたといえる。エヌビディア株は衝撃的な決算発表後も上昇を続け、2023年を通じて株価は3倍以上に跳ね上がった。同社の時価総額は、ChatGPT登場前夜の2022年11月29日にはおよそ3900億ドルだったが、わずか1年半ほどで3,3兆ドル超へと10倍近く膨れ上がり、2024年6月にアップルやマイクロソフトを追い抜いて時価総額で世界第1位に浮上した。これほど急激な企業価値の膨張は異例であり、まさに「AIゴールドラッシュ」とも呼ぶべき熱狂相場が始まったのである。

 他の関連銘柄にもこのAIブームの恩恵が波及した。半導体ではエヌビディアと同様にデータセンター向けGPUを手掛けるAMDの株価も急伸し、また生成AIの膨大な計算需要を支えるクラウド企業にもスポットライトが当たった。マイクロソフトやグーグル(アルファベット)、アマゾンといったクラウド大手は、自社クラウド上でのAIサービス提供や専用半導体開発を加速するとともに、AIスタートアップへの巨額投資にも乗り出した。

 たとえばマイクロソフトはOpenAIへの出資を通じて生成AI分野で突出した地位を築き、その株価も2023年に過去最高値圏まで上昇した。またグーグルも対話型AI「Gemini(公開当初はBard)」を公開し、自社開発のAI半導体TPUを強化するなど巻き返しを図ったことで、株価は年後半に持ち直した。さらにメタ(旧フェイスブック)は2022年の低迷から一転、2023年は「Year of Efficiency(効率の年)」としてAI研究とコスト削減に注力した結果、株価が年初の水準から3倍近くまで急回復、GAFA勢の一角としての存在感を改めて示している。アマゾンもまた、自社クラウド(AWS)で生成AI基盤サービスを開始し、AI企業アンソロピックへの投資を発表するなどAI戦略を前面に打ち出した。

 こうした大手企業のAI分野への積極投資・事業展開が相次ぎ、市場全体が「AI関連なら業績が伸びる」という期待感に包まれたのである。

AI相場の恩恵はAIインフラ企業が独占し、株価指数の構成は大型株に集中している

 2023年から現在に至る株価上昇局面の最大の特徴は、その牽引役がごく一部の巨大ハイテク企業や半導体企業に偏っている点である。ここまでで示した通り、生成AIブームの直接の恩恵を受けたのは、AIインフラを提供する半導体・クラウドの大手企業だった。エヌビディアやマイクロソフト、グーグル、アマゾン、メタといった米国のメガキャップ(超大型株)は軒並み株価を大きく伸ばしたが、裏を返せばそれ以外の銘柄の上昇は相対的に限定的だったのである。

 モルガン・スタンレー・ウェルス・マネジメントCIOのリサ・シャレットは、大手テクノロジー企業を中心としたAI関連銘柄の約40社が、ChatGPT公開以降のS&P500全体リターンの75​%、利益成長の80​%、設備投資増加の90​%を占めたと指摘する。これは一握りの企業が企業価値成長の大半を生み出した計算で、極めて異例の偏りといえる。

 この偏りは株価指数の構成にも如実に表れている。代表的な米国株価指数であるS&P500に占める上位企業の比率は近年上昇の一途をたどり、時価総額トップのエヌビディアを筆頭に、アップル、マイクロソフト、グーグル(アルファベット)、アマゾン、メタ、テスラを加えた「マグニフィセント・セブン」と称される7社で指数全体の約30~35​%を占めるに至った。特に2023年のS&P500の上昇分のうち、およそ6割超がこれら7社によるものだったとの試算も報じられている。これは言い換えれば、その他493社の寄与はごくわずかだったことを意味し、市場の実質的な牽引役がいかに限定されていたかを示している。

 このように株高の恩恵がAI関連の巨大企業に集中した結果、投資家は嬉しい悲鳴を上げる一方で指数の偏重リスクも意識され始めている。特定の企業群への過度な依存は、もしそれらの成長神話が揺らげば指数全体の急落につながりかねないからだ。実際、2023年時点でS&P500採用銘柄の約半数は年初来で下落していたとのデータもあり、勝ち組と負け組のコントラストは鮮明だった。「AI革命」に沸く市場の裏側で、多くの銘柄が取り残されていたのである。

★本記事は書籍『AIバブル後の投資戦略』の一部を抜粋・編集したものです。