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情報が多すぎる現代では、文章を最後まで読まず、自分の先入観に合う部分だけを拾って「読んだこと」にしがちだ。限られた時間で大量の情報を処理しようとすると、私たちの読み方にはどんな変化が起きるのか。言語学者が、「タイパ」を優先した読書に潜む落とし穴を解説する。※本稿は、言語学者の石黒圭『本物の読解力』(SBクリエイティブ)の一部を抜粋・編集したものです。
読む時間が短くなると
読み方は浅くなる
私たちのまわりは多数の情報が取り囲んでいます。私たちが読まなければならない文章量は確実に増え、タイパを考慮しながら効率よく身のまわりの文章を読むことが期待されている状況です。
では、文章をたくさん読むためにはどうすればよいでしょうか。それには2つの方法が考えられます。1つは文章を読む時間を増やすこと、もう1つは文章を速く読むことです。
本来であれば文章を読む時間を増やすのが筋でしょうが、『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』で三宅香帆氏が鋭く指摘したように(三宅2024)、現代人は長時間労働に陥りがちで、じっくり時間をかけて文章を読むことが困難になっています。文章を読む時間を増やせない以上、文章を速く読むという、もう1つの選択肢を取るしかありません。
文章を読むのにかけられる時間と、読める文章の量の関係をざっくり示すと、次のような公式になります。
(読む時間)=(読む文字量)×(読む深さ)
文章を読むのにかけられる時間が一定で、読む文章を減らしたくない場合、読みの深さを浅くするしかありません。「広く深く」が望めず、「狭く深く」でも満足できない以上、「広く浅く」読むしかないわけです。
「読んだことにする」
時短読書の盲点
「広く浅く」読むためにはどうしたらよいでしょうか。速読と言われる特殊な技術を磨くことも考えられますが、一般人には縁遠い技術です。そこで誰もが考え、かつ実践してしまうのが、「読んだことにする」技術です。
文章理解は、ボトムアップ処理とトップダウン処理の組み合わせで行われます。
ボトムアップ処理というのは、言葉という記号の組み合わせを積み上げ式に理解していく処理のことです。読み手は、視覚的に認識した文字から語を認識し、語の組み合わせである文を文法によって理解します。さらには、複数の文のまとまりである段落をつなげ、多数の段落のまとまりである文章全体の意味を理解していくわけですが、その出発点は文章を構成する一つひとつの文字です。
一方、トップダウン処理というのは、読み手が持っている文章の内容や構成についての知識を使って意味を理解していく処理のことです。読み手は自身の既有知識から得られる「だいたいこんなことが書いてあるだろう」という予測を活用し、文章に書かれている内容を推測します。
私たちは時間があればボトムアップ処理を優先し、丁寧に文章を読んでいきますが、時間がない場合はトップダウン処理を優先し、細かいところまでは読まずに済ませ、おそらくこんなことが書かれているだろうと見当をつけておくだけで満足します。
つまり、自分の脳内にすでに存在する個人的文脈を最大限活用し、それに合う部分だけを拾い読みし、「読んだことにする」わけです。時間のかかるボトムアップ処理をサボり、可能なかぎりトップダウン処理だけで済ませるのが、読み時間の時短の技術です。







