将来的に5人に1人がなると言われている「認知症」。運や遺伝によってなると考える人も多いが、じつは意外な要因によって、そのリスクが高まることがわかった。元オックスフォード大の医学研究者であり、「糖と脳」の専門家として知られる医師・下村健寿氏が明かす、認知症になる人の共通点とは?(構成/ダイヤモンド社・石井一穂)

※本稿は、下村健寿『糖毒脳――いつまでも「冴えた頭」でいるために知っておきたいこと』の一部を引用・編集して作成した記事です
「認知症」になる人の共通点。日常の会話にふと現れる“異変”とは?Photo: Adobe Stock

認知症になる人に共通する「ある異変」

休日の午後。
夫婦でスーパーへ向かう車の中。

子どもの習い事の予定や、夕飯の献立など、たわいない話をしながら走っていた。

スーパーに着き、買い物を始めて10分ほど。
野菜を選んでいると、ふと気になる。

「あれ、さっき車の中で何の話してたっけ?」

自分では、ついさっきまで盛り上がっていたつもりだった。
でも、話題だけがぽっかり抜け落ちている。

妻は少し考えてから答える。

「旅行の話だよ。夏休みにどこへ行くかって」
「ああ、そうだった」

その一言で、一気に記憶が戻る。
旅行先の候補も、その流れで話した内容も、ちゃんと思い出せる。

でも、自力ではどうしても出てこなかった。
ほんの10分前まで話していたことなのに、

「あれ、さっき何の話だったっけ?」

と、自分から聞いてしまう。
そんな場面が、以前より増えている気がする。

認知症へとつながる「糖毒脳」という状態

10分前の会話を確認してしまう。

じつはこれ、認知症につながる可能性のある状態を示したチェックリストの1項目である。

そして、認知症リスクを高める要因として、近年注目されている事実がある。

元オックスフォード大の医学研究者であり、医師としても活躍する下村健寿氏は、それをこう呼んでいる。

過剰な糖によって脳が毒された状態を、私は「糖毒脳」と呼んでいます。
(下村健寿著『糖毒脳』より)

「糖毒脳」とは、糖の影響により認知症に向いつつある状態の脳を指す言葉だ。

糖を摂ると、血糖値を下げるためにインスリンが分泌される。

インスリンは脳内で「学習」や「記憶」を司る脳神経細胞同士の情報伝達をスムーズにしたり、アルツハイマー病の原因となる「アミロイドβ」などによる攻撃から脳神経細胞を守る役割も果たしている。

しかし糖の過剰摂取が続くと、やがてインスリンが出づらくなったり、効き目が落ちたりしてしまう。

脳を守るインスリンの分泌に異常がおきるため、結果として糖の摂りすぎが脳の認知症リスクを高めてしまうのだ。

10分前の会話を確認してしまう。

これが、「糖を摂り過ぎている」人に見られる傾向であり、将来的に認知症を発症する可能性がある人に共通する点なのである

下村健寿(しもむら・けんじゅ)
福島県立医科大学卒。同大副理事、医学部病態制御薬理医学講座主任教授。現役内科医でもある基礎医学研究者。日本糖尿病学会東北支部学術評議員。日本内科学会認定内科医。医学博士。群馬県前橋市出身。2004年、日本で働いていた大学医学部から、英国オックスフォード大学への就職を試み、執念の就職活動を実らせて成功。オックスフォード大学正式研究員として、世界を代表する生理学者フランセス・アッシュクロフト教授の薫陶を8年間受けた。その間、新生児糖尿病治療法の発見という世界的快挙に貢献。新生児糖尿病の最重症型であるDEND症候群の脳神経症状治療有効例を報告した論文は米国神経学会誌「Neurology」よりEditorial論文に選出された。貢献を認められて2006年と2010年にオックスフォード大学メリット賞を2度受賞。日本帰国後は、新生児糖尿病に加えて肥満・2型糖尿病などの生活習慣病について、インスリン分泌や脳機能の観点から研究している。