認知症を防ぐために、運動を習慣にする、脳トレに励む――そんな対策をしている人は少なくない。しかし、意外と見落とされているのが「歯」と認知症の関係だ。元オックスフォード大の医学研究者で、「糖と脳」の専門家として知られる医師・下村健寿氏によれば、「歯の本数」によって認知症の発症リスクが大きく変わるという。いったい、歯と脳にどんな関係があるのだろうか。(構成/ダイヤモンド社・石井一穂)

「認知症」になる人の共通点。65歳以上で発症リスクが2倍になる人の“特徴”とは?Photo: Adobe Stock

「歯の本数」が認知症リスクを左右する?

 認知症というと、加齢や遺伝が原因だと思われがちだ。

 しかし、元オックスフォード大の医学研究者であり、医師としても活躍する「糖と脳」の専門家・下村健寿氏は、認知症の発症リスクを左右する「意外な要素」があると指摘している。

「歯」だ。

 下村氏は著書『糖毒脳』で、こう解説している。

近年の研究から、歯の状態によって、アルツハイマー病をはじめとする認知症の発症リスクがかなり異なることがわかってきました。
 

年齢を重ねるにつれて歯は失われていきますが、残っている歯の本数と認知症発症のリスクには高い相関関係があることが明らかになったのです。
 

研究によると、65歳以上で歯が20本以上残っている人は、歯がほとんどない人に比べて、認知症発症のリスクがなんと半分でした。年を取っても歯がたくさん残っていると認知症になりにくいということです。
――『糖毒脳 いつまでも「冴えた頭」でいるために知っておきたいこと』(下村健寿・著)より

 65歳以上で「歯が20本以上残っているかどうか」。

 それだけで、認知症の発症リスクが約2倍も違うというのだ。

なぜ「歯」が脳に影響するのか

 では、なぜ歯の本数が認知症リスクと関係するのだろうか。

 歯は、単に食べ物を噛むためだけのものではない。

 下村氏は、その理由についてこう説明している。

最も有力な説と考えられているのが、歯の奥にある神経の存在です。

 

歯の一本一本の奥には神経が通っており、その神経は脳の中までつながっています。この神経は非常に鋭敏で、上の歯と下の歯の間に髪の毛が一本挟まっただけでも感知できるほどです。歯は単にものを噛むだけでなく、外界に対する強力な「センサー」でもあるわけです。
 

食事や歯磨きなどで歯に何かが触れるたびに、そのセンサーから脳へと鋭敏な信号が送られます。これだけの繊細な信号を受け続けている脳は、常に刺激にさらされ、活発に活動していることになります。
――『糖毒脳 いつまでも「冴えた頭」でいるために知っておきたいこと』(下村健寿・著)より

 私たちは毎日、食事をする。
 歯を磨く。
 何気なく上下の歯を触れ合わせる。

 そのたびに、歯から脳へ刺激が送られている。

 つまり「歯がある」というだけで、脳は日常的に刺激を受け続けているのである。

「歯が抜けた状態」を放置してはいけない

 問題は、歯を失ったときだ。

 下村氏は、歯がなくなった状態を「人が住んでいない家」にたとえている。

一方で歯がなくなると、この刺激が脳に伝わらなくなります。刺激が来なくなるため、当然、脳の反応も減ります。すると、途端に脳の機能が低下したり、脳が萎縮してしまったりするのです。人が住んでいない家はすぐに傷んでしまうと言いますが、それに近い感覚です。
――『糖毒脳 いつまでも「冴えた頭」でいるために知っておきたいこと』(下村健寿・著)より

 使われない家が少しずつ傷んでいくように、刺激を受けなくなった脳も機能が低下してしまう可能性がある。

 しかし、すでに歯を失っている人も、諦める必要はない。

 下村氏によれば、義歯(入れ歯)を利用することで、認知症の発症リスクは40%近く低下することがわかっているという。

 歯を大切にする。
 歯が抜けた状態を、そのまま放置しない。

 それが、「脳の健康」を守ることにもつながるのだ。

(本稿は、下村健寿著『糖毒脳――いつまでも「冴えた頭」でいるために知っておきたいこと』の内容をもとに作成した記事です)

下村健寿(しもむら・けんじゅ)
福島県立医科大学卒。同大副理事、医学部病態制御薬理医学講座主任教授。現役内科医でもある基礎医学研究者。日本糖尿病学会東北支部学術評議員。日本内科学会認定内科医。医学博士。群馬県前橋市出身。2004年、日本で働いていた大学医学部から、英国オックスフォード大学への就職を試み、執念の就職活動を実らせて成功。オックスフォード大学正式研究員として、世界を代表する生理学者フランセス・アッシュクロフト教授の薫陶を8年間受けた。その間、新生児糖尿病治療法の発見という世界的快挙に貢献。新生児糖尿病の最重症型であるDEND症候群の脳神経症状治療有効例を報告した論文は米国神経学会誌「Neurology」よりEditorial論文に選出された。貢献を認められて2006年と2010年にオックスフォード大学メリット賞を2度受賞。日本帰国後は、新生児糖尿病に加えて肥満・2型糖尿病などの生活習慣病について、インスリン分泌や脳機能の観点から研究している。