ワインの名産地といえば、ヨーロッパののどかな丘陵地帯や、広大な自然が広がる大地を思い浮かべる人が多いだろう。しかし今、世界のワイン潮流の最前線に立ち、専門家たちが熱視線を送る新進気鋭の産地は、誰もが知る「あの世界的な大都会」のすぐそばにある。『15か国・地域を飲んで旅する ワインの世界地図』の著者の水上彩氏が、次にトレンドとなる意外な産地のストーリーを紐解く。(構成/ダイヤモンド社書籍編集局)

【ワインジャーナリストが教える】ワイン産地として意外すぎる都市・ベスト1Photo: Adobe Stock

温暖化を味方につけた産地
ニューヨーク

すっと体に染み渡るような軽やかなワインが好まれやすい時代。

そんな世界的なワインの潮流の最前線にいるのが、ニューヨーク州です。

「大都会ニューヨークでワイン造り?」と驚かれるかもしれませんが、マンハッタンのような大都会は、広大なニューヨーク州のごく一部。

車を少し走らせれば、豊かなぶどう畑が広がっています。

中でも注目は、州中西部のフィンガー・レイクス。指を広げたように細長い湖が並ぶエリアです。

この湖が「天然の湯たんぽ」となって冬の厳しい寒さを和らげ、夏は涼しい風を送り込む。奇跡的な気候バランスが、極上のリースリングを生むのです。

NYワインの功労者

この地の恩人は、一人の移民でした。コンスタンティン・フランク博士。

ウクライナ出身のぶどう栽培研究者であった彼は、「こんな寒い場所で、ヨーロッパ系の良いぶどう(ヴィニフェラ種)が育つわけがない」という周囲の冷ややかな声を押し切り、故郷の知識を信じて果敢に栽培に挑みました。

それが1950年代のこと。現代カリフォルニアワイン黎明期よりも10年近く早い時代に極寒の地で革命の種を蒔いた彼の情熱は、まさに狂気に近いといえるでしょう。

この「ヴィニフェラ革命」によって、東海岸のワイン産業は大きく前進したのです。

もし1本選ぶなら、代名詞のドライ・リースリング〈ドクター・コンスタンティン・フランク〉(輸入元:GO-TO WINE)を。

グラスに注ぐと、青リンゴやライムのようなみずみずしい香りが立ち上ります。

口に含めば、キリッと冷涼な酸が走り、湖の澄んだ水をそのままボトリングしたような透明感。

心身を癒やすその味わいは、まさに今の時代の「処方箋」といえるかもしれません。

気候変動という視点でも、ニューヨークは、温暖化の恩恵を受けている数少ない産地。

かつては寒すぎて熟さなかった赤ワイン用ぶどうも、今は豊かに実るようになり、エレガントなカベルネ・フランがこの地の新たな顔として注目を集めています。

「次にくる産地はどこか?」。そう聞かれたら、私は迷わずニューヨークと答えます。

水上 彩(みずかみ・あや)

ワインジャーナリスト/コラムニスト
1986年生まれ、神奈川県鎌倉市育ち。お茶の水女子大学理学部卒業後、大手通信企業を経てワイン業界へ。世界最大のワイン教育機関WSETが認定する、国内でも取得者の少ない最難関資格「Level 4 Diploma」を保持。
『Forbes JAPAN』オフィシャルコラムニストとして、ワインをビジネスや文化の視点から紐解く一方、国内外の産地を精力的に訪問し、ストーリーを丁寧に紡ぐ執筆活動を展開。スーパーで手に入るデイリーワインからハレの日の1本まで等しく愛し、初心者目線の解説に定評がある。また、茶道や着物を日常に取り入れたライフスタイルを実践し、ワインと日本の美意識を交差させた独自の楽しみ方を発信している。趣味はアルゼンチンタンゴ。