ボーナスは夫婦で「山分け」
家計は「穴の開いたバケツ」

 毎月の支出を確認すると、手取りからの黒字はわずか月4万円、年間でも48万円にしかなりません。しかしそれ以上に気になったのは、ボーナスの扱いでした。吉川家では長年、ボーナスを夫婦で山分けし、それぞれが自由に使う習慣が続いていたのです。

「臨時収入だから家計には含めない」という考え方で貯蓄には回さず、各自の裁量で使い切る。日常的な外食は毎月の生活費の範囲に収めるべきですし、洋服や旅行、ブランド品などは年間の特別支出としてあらかじめ予算を立てておくべきものです。

 それを行き当たりばったりで使い、すべてボーナスから支払っていた。一見黒字に見えている家計の裏側は、ボーナスによる赤字補填ありきの状態だったわけです。

 息子の独立を機に、子育て期に溜まっていた我慢の反動が一気に出てしまった。そう考えると、このご夫婦の行動は理解できます。「なんとなく生活できているのに、なぜかお金が貯まらない」という感覚が続いていたのも、無理のないことかもしれません。

 ただ恵子さんは毎月の食費や日用品の支出すら「よくわからない」といいます。どんぶり勘定のまま数年が過ぎ、気づけば老後資金への備えがほとんどできていなかった、というのが実態でした。

 吉川さんは「保険料を削ってNISAの原資にしよう」と考えていましたが、問題は保険ではなく、ボーナスを夫婦で使い切ってしまう家計の構造そのものでした。

 穴の開いたバケツにどれだけ水を注いでも、底から漏れていくだけです。吉川家に本当に必要だったのは、息子が独立した時点でボーナスの山分けをやめ、家計を一から組み直すことでした。毎月のお小遣いと特別費の予算を線引きし、ボーナスを貯蓄や投資に優先的に回す仕組みを作る。それができて初めて、保険の見直しという次のステップに進めるのです。

 保険の見直しについても、同じことがいえます。

「保険料を安くすること」自体が目的になってしまうと、本当に必要な保障まで外してしまうリスクがあります。子どもが独立した後の死亡保障は、基本的に役目を終えています。残された家族の生活を支えるための保障ですから、子どもが自立し、遺族年金や貯蓄で配偶者の生活が成り立つ見通しが立つなら、高い保険料を払い続ける必要はありません。医療保障についても、日本には高額療養費制度という公的な備えがあります。生活防衛資金が確保できていれば、手厚い保険は必ずしも必要ではありません。

 今の自分たちに必要な保障を整理した結果として保険料が下がるなら、それは正しい見直しです。しかし家計の問題から目を背けたまま「とにかく安くしてNISAへ」と動くのは、順番が逆です。

 50代は、老後資金を本格的に作れる大切な時期です。子育てが終わり、収入が安定しているこの時期に何をするかで、65歳以降の生活は大きく変わります。

 だからこそ「手っ取り早い方法」に飛びつく前に、まず自分たちの家計の現状を数字で確認してほしいのです。NISAもiDeCoも保険の見直しも、家計の収支が整ってからの話です。その順番を守るだけで、老後のお金に対する不安は着実に小さくなっていきます。