だから、メニューは山東料理や北京料理が中心だ。山東料理と北京料理はしばしば同じ料理のジャンルとして扱われることもある親戚みたいなものだ。

 店名は清朝の美食家で詩人でもある袁枚の雅号から取った。店の前にある看板は清朝のラストエンペラー、愛新覚羅溥儀の親戚筋にあたる愛新覚羅鴻釣が揮毫したものだそうだ。

 大学時代の私はそんな看板には目もくれなかったが、老舗と言われる店には、やはり「歴史」があるんだなあと、こんなに時間が経った今になって思う。

王道中華の40年後に
「ガチ中華」が現れた

 振り返ってみると、メニューにしろ、赤を基調にしたテーブルや円卓をそろえた内装にしろ、「随園別館」は実にオーソドックスな中華料理店で、本格派でありながら、万人受けする王道中華だ。

 だが、私が同店に出合ってから40年――。近年、日本の中華料理は、当時の私には想像もできなかったほど大きな変貌を遂げた。

 その象徴ともいえる現象が「ガチ中華ブーム」だろう。

 ガチ中華とは何か?

 ここ数年、多くのメディアで取り上げられているが、「ガチンコの」「まじの」「本気の」中華という意味だ。

 数年前、東京・六本木で高級中華料理店を経営する中国人から「ところで中島さん、最近よく聞くガチ中華ってあるでしょう?あれ、どういう意味ですか?ガッチリの中華?」と聞かれて、思わず吹き出してしまったことがあった。

 私は以前、自分の記事で「日本風に一切アレンジされていない、本場中国そのままの料理」という表現で紹介したことがある。

 そもそも「ガチ」という言葉自体、昔からあったわけではない、ここ数年流行り出した言葉であり、「ガチ中華」もコロナ禍の頃からインターネットなどで使われるようになった。22年のユーキャン新語・流行語大賞にノミネートされ、一気に知名度が上がった。

 一部の中華料理好きの人、マニアは頻繁に食べていると思うが、東京近郊、大阪近郊以外に住む人の中には、「まだ食べたことがない」「日本の中華とそんなに違うの?」と思っている人はかなりいると思う。