この秋立て続けに、香港の有名スイーツ店「許留山」の閉店と、中国発の高級火鍋チェーン「海底撈火鍋」の大量閉店があり、話題になった。閉店を嘆くニュースやSNSへの投稿が飛び交ったが、同じ“閉店”ではあっても、実はこの両者はずいぶんと事情が異なる。特に海底撈火鍋トップの判断は、低価格化や人材不足に悩む日本の飲食店から見て、大いに参考になるかもしれないものだ。(フリーランスライター ふるまいよしこ)
日本でも有名な香港のスイーツ店「許留山」が60年の歴史に幕
「香港手作りスイーツ」をウリにしていた、スイーツ店「許留山」が11月30日の営業を最後にわずかに残っていた香港の最後の店舗を閉じた。創業は1950年代で、一人の職人が作る小さな店から起業し、1990年代に香港で爆発的な人気となりチェーン化した。香港に観光に来たことがある人は、ガイドブックを片手に一度は訪れたことのある店ではないだろうか。
ただし、筆者はここ10年あまりの許留山に違和感があった。まさに大ブームを巻き起こした1990年代の許留山はトロピカルフルーツをたっぷり使った、文字通りの「健康的フルーツ系」スイーツ店だった。マンゴープリンや、マンゴーとタピオカをかけ合わせた商品、「楊枝甘露」と呼ばれる、ポメロ(東南アジア産の世界最大級のかんきつ、日本の文旦に近い)の実をほぐしたものや、東南アジア特産の芋・サゴ、マンゴーにココナッツミルクをかけたスイーツなどは、そのまま「香港スイーツ」の代表作になった。
だが、最近のメニューは果物それ自体よりも、大量のクリームやあんこ、アイスクリームを載せた商品を前面に打ち出しており、果物オンリーの商品は確実に減っていた。加えて果物の鮮度が以前ほどではないとも感じた。だいたい香港人は果物が大好きで、街中にフルーツショップが並んでいる。ランチの後にそうした店にちょっと立ち寄ってジュースを搾ってもらって飲むこともできるお土地柄で、わりとフルーツにはうるさい人が多い。