『AIバブル後の投資戦略』を上梓したブルーモ証券CEOの中村仁氏は、「AIバブル最大のリスクは、OpenAIの破綻」と主張します。そして、日本固有のリスクとして、OpenAIに多額の出資をしているソフトバンクの存在をあげます。

日本からの多額の投資Photo: Adobe Stock

ソフトバンクからOpenAIへの投資規模は646億ドル

 日本に固有のもう1つのリスクは、ソフトバンクグループである。同社は通信会社というより、現在ではAI、半導体、未上場株式に大きく賭ける投資会社としての性格が強い。そのため、同社の企業価値を見るうえでは、営業利益だけでなく、保有株式価値から純負債を差し引いたNAV(Net Asset Value)、すなわち時価純資産が重要になる。

 この点で、OpenAIへの出資規模は極めて大きい。ソフトバンクグループは2026年2月、OpenAIへの追加投資300億ドルを発表し、完了後の累計投資額は646億ドル、持分比率は約13​%になる見込みだと公表した。2026年5月時点では、実行済み分とコミット済み分を合わせたOpenAIへのエクスポージャーは646億ドル規模に達すると見てよい。

 ソフトバンクグループが公表する2025年12月末時点のNAVは30.9​3兆円、同時点のドル円は156.5​6円であるため、646億ドルを単純換算すると約10.1兆円となり、NAVの約32.7​%、つまりおよそ3分の1に相当する。

 もちろん、これは基準日や為替、実行時期を単純化した機械的な比較である。それでも、OpenAIの企業価値が大きく下がった場合、ソフトバンクグループのNAV、株価、信用力に与える影響が甚大になり得ることは否定できない。加えて、ソフトバンクグループはOpenAI株式を公正価値で評価し、その変動を投資損益として連結損益計算書に反映すると説明している。つまり、OpenAIの評価額低下は、心理的な悪材料にとどまらず、会計上の損益やNAVにも直接響きうる。しかも同社は日経平均の上位構成銘柄である。したがって、OpenAIの信用不安は、ソフトバンクグループ株の下落を通じて日経平均を押し下げる経路を持つ。

 さらに、アドバンテストと東京エレクトロンだけで約20​%を占める指数構造を考えれば、OpenAIショックは「ソフトバンク安」と「半導体関連株安」の二重の経路で日本株に波及しうる。日本の投資家がOpenAI株を直接持っていなくても、日経平均連動型の投資信託やETF、新NISA、年金運用を通じて、間接的にこのリスクを抱えている可能性がある。

台湾・韓国を揺らすメモリとファウンドリーの反転リスク

 台湾への影響は、さらに直接的である。台湾経済にとってTSMCは単なる大企業ではない。AI半導体の世界的な供給能力そのものを象徴する企業である。AIブームが続く限り、TSMCの先端ノード、先端パッケージ、設備投資、サプライヤー網には強い追い風が吹く。だが、OpenAIや米国クラウド企業の投資計画が見直されれば、エヌビディア、AMD、各社のカスタムAI半導体の発注見通しが変わり、TSMCの先端ノードや先端パッケージの需要見通しにも疑問が生じる。TSMCの技術的優位が失われるという話ではない。問題は、現在の株価や設備投資計画が織り込んでいる「需要の強さ」が維持されるかどうかである。

 台湾では、TSMCだけでなく、MediaTekのような設計企業、ASEやSPILを含む後工程企業、GlobalWafersのようなウエハー関連企業、Nanya Technology、Winbond Electronics、Macronix Internationalといったメモリ企業にも波及が起きる。台湾のメモリ企業は、韓国のSamsung ElectronicsやSK hynixのようにHBM市場の中心にいるわけではない。だが、AI向けHBMに大手メモリ企業の能力が振り向けられることで、周辺領域に供給不足が生まれ、その隙間を台湾勢が埋める構図が強まっている。

 この構造は、AIブームの間接効果をよく示している。Nanya、Winbond、Macronixは、AIブームの主役ではない。しかし、HBMに資本と生産能力が集中することで、従来型メモリや特殊メモリの供給が逼迫し、価格上昇の恩恵を受けることがある。反面、AI向けHBM需要が想定より鈍化し、大手メモリ企業が再び汎用DRAMやNANDへ能力を戻せば、台湾勢が享受していた価格上昇は急速に剥落する可能性がある。メモリ産業は、歴史的に「不足のときは極端に儲かり、過剰のときは極端に赤字になる」産業である。AIはこの性質を消したのではなく、むしろ振幅を大きくしている可能性がある。

 韓国への影響は、よりマクロ経済に近い。韓国はSamsung ElectronicsとSK hynixという世界有数のメモリ企業を抱えており、HBM、DRAM、NANDの価格サイクルが輸出、株価、為替、設備投資に直結しやすい。SK hynixはエヌビディア向けHBMの主要サプライヤーとしてAIブームの代表的な勝者となり、SamsungもHBM、DDR5、NAND、ファウンドリーを通じてAIインフラ需要を取り込んでいる。GPUがいくら速くても、メモリ帯域が足りなければAIモデルの学習や推論は詰まる。そのためHBMは、AIアクセラレータの性能を左右する戦略部品になっている。

 しかし、ここにもサイクルの罠がある。メモリ産業は過去に何度も、供給不足、設備投資拡大、供給過剰、価格崩壊という循環を繰り返してきた。今回のAIブームでは、HBMやDDR5の需要が極めて強いため、「今回は従来のサイクルとは違う」と考えたくなる。しかし顧客がAI投資を減速させる、モデル開発の計算需要が予想より伸びない、推論コスト削減技術が進む、クラウド企業が設備投資を平準化する、といった変化が起きれば、メモリ価格の前提は崩れる。韓国にとってAIバブルのリスクは、特定企業の株価調整ではなく、輸出エンジンそのものが鈍化するリスクなのである。

 日本、台湾、韓国の違いを整理すると、AIバブルへの導火線はそれぞれ異なる。

 日本は製造装置、素材、検査、パッケージ基板、光通信、NAND、そしてソフトバンクグループのような投資会社を通じて接続している。台湾はTSMCを中心とする先端ファウンドリー、後工程、設計、周辺メモリを通じて接続している。韓国はSamsungとSK hynixを中心とするHBM、DRAM、NANDというメモリサイクルを通じて接続している。
米国でAI需要の期待が下がった場合、東アジアでは同じショックが異なる形で表れる。日本では装置受注と日経平均、台湾ではTSMCの投資計画とファウンドリー稼働率、韓国ではメモリ価格と輸出統計に表れやすい。

 AIバブルは、米国株のチャート上だけで膨らんでいるわけではない。日本にとっては日経平均の構造そのものに入り込み、ソフトバンクグループのバランスシートに入り込み、熊本や北海道の地域経済に入り込んでいる。台湾にとってはTSMCの資本支出と半導体国家戦略に入り込み、韓国にとってはSamsungとSK hynixの利益、輸出、株価、ウォン相場に入り込んでいる。

 OpenAIの信用不安は、米国の一企業の問題として始まるかもしれない。しかし、その火の粉が飛ぶ先には、東アジアの工場群と株式市場がある。AI革命を信じることと、AIバブルの波及リスクを警戒することは矛盾しない。むしろ、技術の長期的価値を真剣に考えるからこそ、その熱狂がどれほど日本とアジアの経済構造を巻き込んでいるのかを冷静に見ておく必要がある。