年収500万円世帯の例は、現役世代が病気に罹患するモデルとして、かなりリアリティのある数字といっていいだろう。

 さらに、このような具体例から類推できる当然の帰結を、五十嵐特任准教授の試算はもうひとつ明らかにした。それは、現行の高額療養費制度でも年収550万円未満の所得区分世帯の4割近く(計算では36.4パーセント)が破滅的医療支出に瀕している、という事実だ。

 このような統計を見ると、がんであれ自己免疫疾患などの難病であれ、長期にわたって高額療養費制度を利用するかなりの数の人々が医療費の支払いに大きな負担を感じていることがわかる。そんな負担に苦しみながら治療費を支払い続ける辛さをはかる概念が「経済毒性」だ。

 がんなどの命に関わる病気はいうまでもなく、さまざまな難病でも、罹患が判明すると日常生活がそれまでとは一変する。以前と同様の仕事を継続できなくなる事態は往々に発生するし、休職や配置換えもあるだろう。衣類や食事にもこれまで以上の配慮が必要になり、治療費以外にあれこれと金がかかるようにもなる。最初は電車やバスなど比較的安価な公共交通で通院できていたとしても、病気の進行やそのときどきの体調などによってタクシーなどを利用する必要が生じる場合もある。

 そのような、病気が経済状況や生活の質、心身の状態にもたらす悪影響「経済毒性」について、五十嵐特任准教授たちが婦人科がんサバイバーに対して調査を行った結果、回答者の80パーセント以上が経済毒性の影響を受けていることが示されたという[注2]。

[注2]Yusuke Kajimoto, et al. “Validity of the COmprehensive Score for financial Toxicity (COST)in patients with gynecologic cancer.” International Journal of Gynecological Cancer, Volume 32, Issue 9, September 2022, pp.1189-1195.
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S1048891X24008582