この調査からわかることは、大きな疾病を経験した人のほとんどは、その後の生活でも経済的に何かしらの悪影響を受けている、ということだ。つまり、高額療養費制度「多数回該当」によってある程度の経済的救済はあるものの、それでも利用者の負担感は依然として高く、経済毒性を十分に希釈するには至っていない、ということだ。
この経済毒性の問題は、2026年8月から年間上限額という新たな救済措置が適用されるようになった場合でも、完全には解消されない。たとえば、2カ月に一度のペースで7万5000円を支払うケースなどはその典型例だ。年収770万円以下の所得区分の場合だと年間上限額は53万円だが、上記の例だと7万5000円×6カ月=45万円となって、年間上限の救済金額に届かないからだ。
このような場合だと、1カ月あたりの自己負担上限額引き上げによって高額療養費の適用が遠ざかる悪影響のみを受けて、経済的に苦しい支払い状況は一向に改善されない。まさに制度の〈落とし穴〉〈バグ〉というべき状態である。
1年間毎月利用する人は1割程度
「多数回該当」をめぐる誤解
『高額療養費制度』(西村 章、集英社)
「多数回該当にもある種のミスリードのようなものがあって、どうしてもその名称から一般的には毎月一定額の支払いをしているように想像しがちですが、じつは12カ月べったりと毎月利用している人は、高額療養費制度の利用者全体でも1割程度なんです」と、五十嵐特任准教授は説明する。
ここで示されているデータは、自分が制度を利用している実感ともよく符合する。自分自身の例だが、生物学的製剤のレミケードは初回投与後に2週間後、6週間後、その後は基本的に8週間隔(最長12週間隔)で投与する。つまり、この十数年は毎年2カ月もしくは3カ月に1回の間隔で高額療養費制度を利用してきたわけだ。
疾患の種類や投与する薬剤によって治療方法はさまざまだが、このようなインターバルで多数回該当を利用する人はけっして少なくないはずだ、という体験的実感は、多数回該当利用の実態のグラフ[図12]で定量的なエビデンスとして示されている、と言ってもいいだろう。
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