参加者は、Uberに関するさまざまな論点(例えば、「Uberドライバーは営業許可を取得すべきか」「乗客の安全はどのように確保されるべきか」「既存タクシー業界への影響はどう考慮されるべきか」など)について提示された意見表明に賛否を投じ、また自ら新たな意見表明を投稿することもできました。

 Polisの分析によって、当初は激しく対立しているように見えた各グループ間にも、実は「乗客の安全確保は最優先であるべき」「ドライバーは適切な保険に加入すべき」「車両は定期的な検査を受けるべき」といった点では、広く合意が存在することが明らかになりました。これらの「共通の土壌」を足がかりに議論を続けることで、徐々に相互理解と歩み寄りが進みました。

オンラインで得た合意が
政策案に反映された

 最終的に、vTaiwanのプロセスを通じて、「Uberのようなプラットフォーム事業者は台湾で登録し、税金を納めること」「ドライバーは営業許可を取得し、適切な保険に加入すること」「既存タクシー業界との公正な競争条件を確保するための措置を講じること」といった内容を含む、多岐にわたる合意事項が形成されました。驚くべきことに、これらの合意事項の多くは実際に台湾政府の政策として採用され、関連法規の改正へとつながったのです。

 vTaiwanとPolisの成功は、いくつかの本質的な要因によるものと考えられます。

●アノニミティ(匿名性)と心理的安全性:Polisでは、誰がどの意見に賛成/反対したかは公開されず、個々の意見表明そのものが議論の中心です。これにより、参加者は社会的圧力や立場を気にすることなく、率直に自分の考えを表明しやすくなります。

●非同期的なコミュニケーション:オンラインでの議論は非同期的に行われるため、参加者は自分のペースで情報を吟味し、熟考した上で意見を発信できます。これにより、感情的な応酬に陥りにくく、より理性的な対話が促進されます。

●「共通の土壌」の可視化:Polisが対立だけでなく合意点をも可視化することで、参加者は絶望的な対立状況を知るだけでなく、建設的な解決策を見出す希望を持つことができます。

●政府のコミットメント:台湾政府(特にオードリー・タン)が、vTaiwanで形成されたコンセンサスを真摯に受け止め、実際の政策に反映させるという強い意志を示したことが、参加者の信頼とモチベーションを高めました。

『21世紀を動かす思想』書影21世紀を動かす思想』(樋口恭介、集英社)

 もちろん、vTaiwanにも限界や課題はあります。例えば、デジタルデバイドの問題(インターネットアクセスやデジタルリテラシーを持たない人々が議論から排除される可能性)、参加者の代表性の問題(特定の意見を持つ人々が過剰に代表される可能性)、複雑な問題を単純化しすぎるリスクなどが指摘されています。

 しかし、vTaiwanの実践は、一見すると解決不可能な社会の対立を、テクノロジーが創造的な協働と合意形成へ導くことができるという強力な証左となりました。それは、多様な意見を無理に一つに束ねるのではなく、それぞれの意見を丁寧に聞き取り、その中から共通の価値や目標を見つけ出すプロセスを、テクノロジーが賢く支援するという、プルラリティ(編集部注/オードリー・タンと経済学者グレン・ワイルが提唱した、多様な社会を推進するための設計思想)の理念を具体化したものです。

 この台湾の実践は、デジタル時代の新しい民主主義のあり方を考える上で、世界各国の政府や市民社会に貴重な示唆を与えています。フランスのマクロン大統領が主導した「大討論会(Grand Debat National)」でもPolisが一部活用されるなど、その影響は広がりつつあります。