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米中が火花を散らす「AI(人工知能)覇権」を巡る産業戦争において、要となるのが半導体サプライチェーンだ。米エヌビディア、台湾TSMC、中国のファーウェイなどが一般にも広く知られるが、彼ら半導体メーカーだけで産業は成り立たない。半導体を製造する装置があってこそだ。世界最大の半導体製造装置メーカーであるオランダのASMLは、最先端の半導体を製造するのに欠かせない極端紫外線(EUV)露光装置で市場を独占。中小企業から巨大企業に変貌を遂げ、今や半導体産業の中核を担う。このASMLの舞台裏を描くノンフィクションの和訳本『FOCUS ASMLの流儀――地球上で最も複雑な装置をめぐる勢力争いの裏側』(マルク・ハインク著、化学工業日報社)の中から、世界最大の半導体受託製造企業であるTSMCとASMLの関係を描いた「第24章 モリスの仲間」を3回にわたって特別公開する。第1回はASMLとの関係を通じて、台湾・新竹市にあるTSMCの本社、そして創業者であるモリス・チャンの実像を追う。
TSMC本社に高校生バイトの姿
7万人を擁する軍団の“新兵”候補
午後5時の新竹サイエンスパーク。信号が青に変わるたびに、スクーターの群れがTSMCの敷地内から飛び出してくる。その群れは、ガスや薬品を満載したトラックや、「ファブ20」の建設現場に出入りする車両をすり抜けて行く。「ファブ20」は最新の超巨大工場のことで、2025年から2ナノメートルの精度で半導体チップを生産する予定になっている。とてつもなく大きな施設で、他のTSMCの建物の間にかろうじて収まっている。
台湾積体電路製造股份有限公司(TSMC)の従業員を見分ける方法はたくさんある。スクーターの泥よけに貼られたT印のステッカーや首にかけたオレンジ色のキーホルダー、透明なバッグ。透明なバッグは秘密漏洩を防ぐために義務付けられている。スマートフォンを持ち込むことは禁止されている。
半導体工場は24時間稼働しており、生産に携わる従業員は12時間交代制で勤務している。TSMCは2023年に6000人の新規雇用を目標としていたが、台湾では出生率が低下し続けており、優秀な人材の確保は骨の折れる仕事だ。現在、同社では高校生がアルバイトとして週に数時間働いている。すでに7万人の兵力を擁する「TSMC軍団」の新兵として将来、正式に採用するためだ。
プレイステーションもiPhoneも
エヌビディアのグラフィックチップも製造
半導体メーカーであるTSMCはこの業界において特別な位置を占めており、ソニーのプレイステーション、アップルのiPhone、そして人工知能(AI)アプリケーションの実行に使用される米国の半導体メーカー、エヌビディア(NVIDIA)のグラフィックチップ(GPU)も製造している。さらに、テスラやアマゾン、アリババ、マイクロソフトのデータセンターで使われている半導体チップは、TSMCで作られたものだ。2022年には、TSMCは世界の半導体チップの半分以上を供給した。最先端プロセッサに限ると、その数字は90%に及ぶ。
最先端の半導体工場を建設するには膨大なコストがかかるので、半導体設計業者(アップル、エヌビディアなど前述の企業)はTSMCのような製造を専門とする「ファウンドリ」の生産能力を借りるのが主流だ。インテルでさえ、自社のEUV生産ラインがフル稼働できない間は、生産の一部を台湾に委託している。







