話をレンズに戻すと、カメラのレンズには、広角、標準、望遠のそれぞれのズームレンズと、特定の焦点距離に固定された単焦点レンズがある。ソニーは、広角、標準、望遠のそれぞれのズームレンズで、Gマスターシリーズという最高級ラインアップをそろえ、プロユースのユーザーにもソニーのカメラを使ってもらえるようにその性能を訴求してきた。ラインアップ全体で言えば、最高性能のレンズを揃えて、カメラシステム全体の完成度を高めることでユーザーの支持を集めている。
一方で、ソニーが相対的に弱いのが、準高級レンズとも言える、性能的にGマスターよりも下のラインアップだ。良いレンズとは、F値の低い明るいレンズと言われる。F値の低いレンズは、暗いところでも撮影できるほか、ミラーレス一眼カメラならではのぼけ味をだすことも得意だ。こうしたメリットがある反面、レンズ本体のサイズや重量が大きくなる傾向にあり、また価格もそれなりに高額になる。
タムロンとの連携で強化される
「準高級価格帯レンズ」の勝算
そんなソニーに対してタムロンが得意なのは、そこそこのF値でコンパクト・低価格に高い性能を実現する準高級価格帯レンズだ。いわば、カメラのライトユーザーも含めた実用域に集中して商品を展開している。特に望遠レンズではその傾向が顕著だ。
準高級価格帯レンズは、ソニーのレンズ製品ラインアップの弱さでもあり、このあたりを補完できるメリットがソニーとタムロンとの間にはある。作っているレンズのメインカテゴリが違うので、今ある製品ラインを組み合わせるだけでも、相互補完的なレンズラインアップを作ることができる。
また、将来に向けたレンズ製品の開発力強化という意味でも、タムロンの開発力はソニーにとって必要な資源と言えそうだ。現在、カメラ愛好家の間では「中華レンズ」と言われる主に単焦点のコストパフォーマンスの高いレンズがじわじわと人気を集めている。これらを展開する中国メーカーの開発力が強くなれば、潜在的に日本のカメラメーカーの脅威にもなる。将来的な中国企業との競争においてもレンズの開発力強化が必要だと、ソニーは判断したのかもしれない。
このように考えると、ソニーがタムロンを買収したいと思うのは無理もないと言えそうだが、気をつけなければいけない点もある。それは集中化のリスクだ。ソニーのエレクトロニクスの製品開発資源をあまりにも既存事業であるカメラだけに集中し、将来を見据えた新しいBtoC事業への投資を怠れば、カメラがコモディティ化した瞬間に、ソニーのエレクトロニクス事業全体が傾くというリスクもあり得る。
経営が順調なときに既存事業を強化するタムロン買収のような打ち手は経営的に正しい判断だが、同時に将来に向けた新しい事業の開発投資を怠ってはならない。
(早稲田大学大学院 経営管理研究科 教授 長内 厚)







