なぜここで彼が恐竜の図鑑を捨てることになったのか。研究者の道を諦めたのか。それは「カンナと結婚するなら、就職することが必要だ」と思ったからだ。

 端的に言えば男性として、夫として、そしてもしかしたら父として、家族を養いたかったからだ。

 だが皮肉なことに、駈の就職の結果、仕事が忙しすぎて、夫婦関係は破綻する。

恋愛と結婚生活は
なぜ両立できないのか?

 坂元裕二の描く世界において、しばしば仕事や生活と、恋愛や結婚は「両立できないもの」として対比される。

 たとえばドラマ『カルテット』(TBS系列、2017年)や『最高の離婚』(フジテレビ系列、2013年)においては、恋愛関係ではうまくいっていた男女が、夫婦になり生活や仕事との両立をおこなうようになると、関係がうまくいかなくなる。

 あるいは、映画『花束みたいな恋をした』(東京テアトル・リトルモア、2021年)においては、仕事によって同棲関係が破綻していく様子が描かれていた。

 これらの作品のなかで幾度も繰り返されるのはこのような構造である。──ロマンチックな恋を守るためには仕事や生活が必要だが、仕事や生活は恋のロマンチックさを壊してしまう。

 それは『カルテット』でも『最高の離婚』でも『花束みたいな恋をした』でも『ファーストキス』でも描かれた、坂元作品の主題のひとつである。

 ロマンチックな恋を守るために結婚したり就職したりしたはずなのに、結婚生活や職場環境はロマンチックな恋心をどこかで奪ってしまう。このような展開が坂元裕二の描く世界ではしばしば繰り返される。

子どもを持たない選択が
妻との時間をつくってくれた

 だが、タイムリープ後の駈は、夫婦関係を再構築できた。それはなぜだろうか。

 答えは、タイムリープ後のカンナのある行動によって、駈が、この夫婦関係は15年で終わることを知ったことにある。

 15年の期限があるならば、男性として、夫として、そしてもしかしたら父として、家族を養うために必死に労働しなくてもいいからだ。