付き合っていた頃はあれほど好きだったのに、結婚すると恋愛感情が薄れてしまう――。そんな夫婦のすれ違いは、なぜ起きるのか。脚本家・坂元裕二は『ファーストキス 1ST KISS』『カルテット』『最高の離婚』『花束みたいな恋をした』などで、その問いを繰り返し描いてきた。文芸評論家・三宅香帆が、坂元作品に共通するテーマから、恋愛と結婚がすれ違ってしまう本当の理由を読み解く。※本稿は、文芸評論家の三宅香帆『「夫婦」不在社会』(講談社)の一部を抜粋・編集したものです。

結婚のために夢を諦めた駈を
待っていた夫婦関係の破綻

三宅香帆氏三宅香帆氏 写真/渡辺充俊(c)講談社

『ファーストキス 1ST KISS』(以下『ファーストキス』)の主人公・カンナ(松たか子)は、車の運転中、不意にタイムリープしたことに気づく。辿り着いたのは、自分と結婚する前の駈がいる15年前の風景だった。

 実は駈は、カンナと離婚寸前まで冷めた夫婦関係を送り、亡くなっていた。しかし15年前の出会ったばかりの駈は、古生物の研究者を夢見る青年だった。彼はカンナと結婚することになった時、稼げる仕事──不動産会社の経理職に転向する。結局その仕事が忙しすぎてふたりの関係は冷めてしまったのだ。

 タイムリープしたカンナは、出会った頃の駈に恋をする。駈もまた15年後のカンナに恋をする。駈は自分が15年後に死ぬことを知りながら、仕事よりもカンナを大切にする日々を誓う。

――つまり、駈が15年後の死を知ったことで、ロマンチックな恋愛と、結婚生活で相手を幸せにすることの距離が埋まったのだと解釈できる。

 どういうことか説明しよう。タイムリープ前、カンナと出会って駈は恋をした。その恋愛の延長線上で、結婚が始まるとどうなるか。駈はカンナとの結婚生活を始めるため、稼げない研究員のままではいられなくなる。彼は大切にしていた恐竜の図鑑を捨て、職場の同僚と休日に好きでもない草野球をする。夢を捨て、生活を選択する。