人生100年ならまだしも、15年と分かっていたなら、出世して、妻や、もしかすると生まれてくる子を「養うために稼ぐ」ことに時間を使うのではなく、妻との時間を優先することができる。
つまり15年という期限は、彼を家父長制的価値観から遠ざけることを可能にしたのだ。……というと、いささかアクロバティックな論に聞こえるかもしれない。が、実はカンナと駈の間に、タイムリープ前は子どもをつくる可能性があったが、タイムリープ後は子どもをつくる可能性がなくなったという補助線を引けば、本作の理解が可能になる。
カンナは幾度も「(他人の)赤ん坊を私より優先して亡くなるなんて、ひどい夫である」と述べていた。つまりカンナとしては、妻と生きる未来よりも、見知らぬ他人の赤ん坊を助けて死ぬことを優先した夫を責めているのである。
《カンナ 恋愛感情がなくなると、結婚に正しさが持ち込まれます。正しさは離婚に繋がります
駈 恋愛感情をなくさなければ
カンナ 恋愛感情と靴下の片方はいつかなくなります
駈 洗濯機の裏に落ちてるのでは
カンナ 彼はわたしより見知らぬ他人を優先したんですよ?
駈 それは最低ですね
カンナ そう思いますか?(駈を睨んで)殴っていいですか?
駈 なんなら踏んでいいと思います》(坂元裕二『ファーストキス 1ST KISS』KADOKAWA、2025年)
駈 恋愛感情をなくさなければ
カンナ 恋愛感情と靴下の片方はいつかなくなります
駈 洗濯機の裏に落ちてるのでは
カンナ 彼はわたしより見知らぬ他人を優先したんですよ?
駈 それは最低ですね
カンナ そう思いますか?(駈を睨んで)殴っていいですか?
駈 なんなら踏んでいいと思います》(坂元裕二『ファーストキス 1ST KISS』KADOKAWA、2025年)
このカンナの批判を聞いた後であっても、最終的に駈はやはり子どもを救う選択肢をとる。つまり駈は、15年という期限を受け入れ、子どもをつくらず、(他人の)子どもの命を救うことを選んだのである。そして、この選択と引き換えに、カンナとの夫婦関係を優先させる時間を手に入れることができた。
「男性的な働き方」が
夫婦関係に亀裂を生む
タイムリープ後の駈は、思ったのではないだろうか。
「15年後に自分が死ぬなら子どもも持たないほうがいいし、夫婦関係を破綻させてまで家計を背負わなくてもいいのだ」と。







