これは、「死を背負って生きる」ということでもあると思います。柏木哲夫先生(編集部注/50年以上にわたってがん患者を看取ってきた日本のホスピス医の草分け。大阪大学名誉教授・ホスピス財団名誉顧問)は「生の延長線上に死があるのではなく、人は死を背負って生きている」と言います。
1枚の紙の表が「生」だとすると、ふっと風が吹いて、紙が裏返ることがある。裏には「死」と書いてある。「死に近づいていく」でも、「死が近づいてくる」でも、「死が追いかけてくる」でもなく、私たちは死を背負って生きているのです。
つらいイメージのがんには
「死を準備できる時間」がある
医師には「死ぬならがんがいい」と言う人が多いそうで、末期がんの患者を数多く看取ってきた柏木先生もそう言っていました。つらいイメージのあるがんですが、いったいなぜなのでしょうか?
その背景には、3つの要因が考えられます。第1に、死への準備期間があること。突然倒れて即座に入院となる脳梗塞や脳出血、心筋梗塞などに比べて、がんの場合はある程度病状の進行が予測できるため、家族との別れや身辺整理など死の準備ができます。
第2に、医療・緩和ケアの進歩によって、痛みや苦しみが軽減できるようになったこと。人は痛みに弱く、痛みにもがき苦しみながら死ぬとしたら恐怖を感じますが、痛みの問題はほぼクリアできたということでしょう。
第3に、他者に迷惑をかけずに済むこと。がんは老衰や認知症と異なり、他者の世話を受けて生きる期間が短く、しかも死の間際まで意識の明晰さを保ったままでいられるということでしょう。
ホスピス財団の調査(図表4)によれば、「家族やまわりの人に迷惑をかけたくないから」が、長生きしたくない理由の1位でしたが、「がんで死にたい」は、こう回答した人たちの気持ちとまさに同じ。ただし、余命宣告されて死を受け入れる覚悟ができるのならば、という条件つきではありますが。
同書より転載 拡大画像表示







